第11話 引っ越ししたよ!



 そんなこんなで、サンクレル冒険者ギルドから管理を任された元お食事処に拠点を移しました。

 宿の女将さんから餞別でもらった魔石を設置すると、家の中の水道、コンロ、照明なんかは起動したので、ヨシ!!

 でもこの家、魔石が抜き取られていて、盗賊が持ってた可能性もあるとか言われたので、まず、家の周辺に日が沈むと物理結界がかかるようにした。

 結界レベル低いけど、サンクレルからここまでの道中、鼻歌でモンスターも出にくいようになるぐらいなんだから、大丈夫よね。

 そしてなにより、ここへ移動したのは正解。

 魅了スキルと連動してるパラメーター(鑑定)が仕事し過ぎで、オンオフの切り替えが難しくてうっとおしい感じだった。まあ、いい人とそうでない人を見分けられるっていうのはいいんだけどさ。

 こういう能力の使い方の相談、誰にすればいい? やっぱりイリーナさんかな? 街に出た時に一度聞いてみよう。


 例の管理物件に拠点を移してまずはお掃除。

 自分が使う生活スペースの掃除、キッチンは浄化の時にやったけど、もう一回。

 調理器具や食器なんかも、使う分だけ洗う。

 あとはお部屋。

 お部屋掃除して、ベッドで休んだんだけど……やっぱり前の持ち主のものだし、結構時間が経過してて、そのまま使うのがこわかった。一応、浄化魔法かけて寝たけど、寝た気がしなかったのよ。

 冒険者の方……シャムさんあたりなら、きっと「アリスちゃんは女の子だな~ダンジョンの中じゃその場でゴロ寝よお」とか言いそう。

 いや、わたしはダンジョンには潜らないし!

 やっぱりベッドは替えたいわ~本体は作り頑丈そう……でも塗装でカラーチェンジしたいな、あとベッドマットは新しいのにしたい。

 枕や毛布なんかの寝具も買い足しよ! サイズを計ろう。

 ついでにこの古いベッドマットを処分してもらえるかな……。

 この間作った、巾着リュック(アイテムバッグ)には余裕で入る。

 食料の買い出しはここに来る前それなりにしてきたから問題ないとして、やっぱり住環境の整えよね~。

 朝起きて、窓を開けてお部屋を見渡すと、浄化したのにまだどよんとしてる感じ……これは純粋に経年劣化というかそういう感じよね。壁とかも黄ばんでるっていうか……。

 いつものワンピースに着替えようかと思ったけど、やめた。いろいろお掃除したいし、修繕箇所も回らないとダメだから、先日、自分で作った作業用つなぎに着替える。

 このつなぎがさあ……。


 ぱぱーん。


 時空神の贖罪を受けし元聖女が作ったつなぎ

 着用時スキル、建築、木工、石工、塗装技術、細工の付与上昇。

 防御力 ☆☆

 体力  ☆☆

 防汚  ☆☆ 

 備考:通常のつなぎより汚れにくく、洗濯してもへたれることがない。


 ……まって……なんなんよこの付与は。

 あれ? パジャマを作ったら、疲労回復とかつくんじゃないの?

 寝具とかも……もしかしてそうなる?

 枕とかベッドカバーとか……え……何それ、ちょっと気になるわ。

 とりあえず、それはまた後で作るとしてね、今日からここに住むので住環境改善が課題なのよ。

 屋根修理にはまだまだ時間あるから、それまではこのお部屋の改装に必要な資材の買い出しだ!

 メモをする。まず寝具と~塗料と~壁は壁紙? これも塗装の方がいい? それとも塗り壁にしちゃう?

 どちらにしろ、この部屋の壁は白がいい。白! 白は全てを綺麗に見せるのよ。

 ピンクブロンドの髪をツインテールにまとめて、動きやすい恰好になったら、ぐうっておなかが鳴った。

 ごはんごはん~朝ごはん~まずはそれが先よね!


 キッチンに降りて、パン屋さんで買っておいた朝食用のサンドイッチを例の巾着リュックから取り出し、片手に摘まみながら、コーヒーを淹れる。

 このサンドイッチうまっ! サンドイッチっていうよりもバーガーのバンズ? マフィン? 小麦の香りがふわってしてて、鮮やかなレタスがはみ出てる。

 シャリシャリのレタスのBLTサンド。

 トマトの酸味とベーコンのしょっぱさと脂の甘さが混然一体となってるじゃないの! あのパン屋さん人気がでるはずよねえ。

 ああん! 早くお湯湧いて~コーヒー欲しい~!! なんだ、朝からこの最高の贅沢感~。

『うさぎの足跡亭』の女将さんの料理も良かったけど、これはこれで負けてないわ~。

 コーヒー淹れて、再びBLTサンドをかぶりつく。

 これソース何使ってるのよお~! あとマヨネーズが存在するこの大陸サイコーなんですけどおおお!! はむはむとサンドイッチを食して、手を洗う。


 お行儀悪くマグカップ片手に店舗スペース内を歩いてみる。

 店舗スペースど真ん中までくると、床がたわむ。

 ギシィって音がして、足元が抜けそう。こっわ!

 床修繕したい、床材の買い出しも考えないとな。

 そうこうしてると、玄関ドアのカウベルがコロコロンって鳴った。


「ハンザ工務店でーす。屋根の修理の下見に来ました!!」


 わたしは慌てて玄関に向かうと、工務店の若いお兄さんとベテランのドワーフっぽい人が一緒に玄関前に立っていた。


「今朝、下見について問い合わせようと『うさぎの足跡亭』に行ったら女将さんから、こっちに引っ越したって聞いたもので、下見、今やっちゃって大丈夫ですかね?」

「はい! 問題ないです!」

「ここはアニスがいた物件だろう?」

 いかにもベテランでザ・ドワーフっていう人が口を開く。

「あ、はい、前の持ち主の方とお知り合いですか?」

「まあな、ハンザ工務店棟梁のハンザだ」

 わあ、わざわざ、オーナーさんがきてくれた!

「アリスといいます」

 ハンザさんはうむと頷く。

 ハンザさんと、一緒にきたのは新人さんらしい。

 ハンザさんは前の持ち主であるアニスさんとお知り合いみたいで、勝手知ったるなんとやら……そんな感じで、倉庫の方へと歩いて行く。

「屋根修理の下見だろう? 倉庫に梯子が置いてあるはずだ」

 倉庫の引き戸をガタガタ言わせて開く。

「建物自体は古いからな、倉庫や工房なんかは建物が完成してしばらくしてから増築したやつだ。しかし経年劣化しとる、お嬢ちゃん本当にここに住むのか?」

「浄化した時に、アニスさんにお願いされてしまいましたから。サンクレルの冒険者ギルドからも管理の依頼を受けました」

「ふむ……そうか」

「屋根は危険だから、ハンザさんのところでお願いしたいんですけど、あとは自力でリノベーションしていこうかなって思ってます」

「は!?」

 新人さんがわたしの言葉に建物とわたしを交互に見比べる。

「まーアニスもここは自力で作ったからな……この倉庫を見てみろ」

 バチっと倉庫内の照明をハンザさんがつける。

「アニスのやつは、ご丁寧に、ボロなりにこの倉庫の内側に劣化防止の魔法をかけていた。材料は当時のままだ。板もやられてないし、使えるものは大量にある」

 わたしも倉庫を覗き込む。

 よくよくみてなかったけど、おお~結構あるじゃん! え、塗料とかもあるし工具とかも木材とかもある!!

 え~材料買わなくちゃって思ってたけど、これは買わなくて済むやつも大量にあるのでは!?


「お嬢ちゃんはこれを見たから自力でやろうと思ったんだろ」


 いえ……この倉庫の中は初見です。

 業者に頼むと、材料費以上にお金がかかると思って、できることは自分でやろうとしただけです。

 そうケチなんです。

 それ以前に、リノベーションを工務店さんに丸投げするほどのお金持ってないだけなんですっ!!

 貧乏が辛い!

 でも。

 強制力に乗っかったままだったら、世が世なら王族累系の公爵家の養女、魅了スキルがガンガンお仕事して、蝶よ花よともてはやされて、カトラリーより重い物は持たない生活。

 でもその生活はもれなく死亡ルート一直線だもんね。

 だったら、まあ多少の苦労は? いいかなって。

 生きてる~って実感もあるだろうし?

「危ないっす! そんな力もないのに、力仕事っすよ⁉」

 新人さんが心配そうにそんなことを言う。

 あちゃ~魅了スキルが仕事しちゃってるかなー。


「でも、前の持ち主と約束したので!」


 わたしは元気よくそう答えるのだった。


‐―――――――――――――――――――――――――――――――

ハンザ(ハンザ工務店棟梁)髪色セピア瞳色青

「アニスがゴーストになってた……一文字違いの名前のプリーストが浄化したっていうが、これまた……ふわふわしたお嬢ちゃんだな……」


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