第8話 イリーナさんにミッションクリアの報告をする。



 サンクレルの冒険者ギルドに戻る頃にはお昼をちょっと過ぎた感じだった。

 移動で合計3時間だけど、浄化魔法の為にお掃除とかしてたからね。

 わたしが冒険者ギルドに入ろうとすると、「シー・ファング」の皆さんが、ドアを開けてくれた。冒険者で紳士だ~。


「ありがとうございます」


 リーダーのルイスさんはにっこりと笑う。

 こちらの魔法使い様は、品がいい。なんかここに来る前の学園の男子生徒を思い出した。ま、ルイスさんのほうが、年上なんですけどね。

 わたしがギルド内に入ると、ざわっとした空気が……。

 あ、『シー・ファング』の人達って有名なのかな……好感度パラメーターのついでにいろいろ見ると、Bランク以上だもんね。


「イリーナさんただいま戻りました!」

「アリスさん! ちゃんと浄化できたのね⁉」

「はい」

「よかった~、今回の依頼料よ。わたし、この後ちょっと遅い昼休憩なの、一緒にどう?」

「わあ! おなかぺこぺこなので是非~」

「じゃ、そっちのブースで待っててね! はい、ルイスさんお待たせしました」

 そして開いてるブースの中で待つこと30分……え、遅くない? 

 おなか鳴っちゃうよ~。

 折角、依頼料金貰ったから、美味しいの食べに行きたいのに~。

「アリスさん、ゴメン遅くなって、えっと、おなかすいちゃってるよね? いい店案内したいんだけど、ギルド内の食堂でいいかな?」

 いい店は行きたいけど、空腹は空腹。

 それにギルド内の食堂って、使ったことないし、興味あるな。

「いいですよ」

「よかった。じゃ、食堂に行きましょう」

 食堂は受付から隣にすぐ、4~6人で使用できるテーブルが10セットと、カウンターの他に窓際に二つ受付の相談ブースみたいに、簡易な仕切りで区切られたスペースがあった。

 食堂結構広いのね。

 このパーテーションとかは、多分リーダー同志が合同クエストを受けてお茶や食事しながら打ち合わせ~みたいなスペースにしてるんだと思う。

 防音魔法効果ありのパーテーションを使っていて、景観がいい窓際。

 イリーナさんはその区切られたスペースの方へ向かって行く。


「や」


 イリーナさんが案内してくれたスペースにルイスさんが先に座っていた。


「おなかすいてるよね、アリスさん、なんでも頼んで」

「は、はい」

「サンクレルの冒険者ギルドは女性も多いから、香草チキンと、スープ、サラダのセットなんかお勧めだよね、本日の気まぐれアクアパッツアも人気、どちらもハーブと岩塩がメルクーア大迷宮のダンジョン産だから、美味しいよ」

 ルイスさんが勧めてくれる。

「え、っと、じゃあ、チキンセットに!」

「じゃ、わたしも。ここの食堂は美味しいんだけど、冒険者が多いから、このパーテーション以外で食事するとなると、落ち着いて食べるのが無理なのよね」

 ほうほう。

 イリーナさんはそう言う理由でここの席をルイスさんにとってもらったのかな?

 可愛い感じの食堂のウェイトレスさんがオーダーをとって、パーテーションから出ていく。


「さて、アリスさん、ルイスさんから聞いたんだけど、あの物件、貴女の魔法で聖域化しちゃったんだって?」


 はあ、そうなんですよ~まさか浄化魔法でそうなるなんて知らなかった~。

 いやいや、ルイスさんがあの建物を鑑定してたってことはですよ? 

 ルイスさん、あの「時空神の贖罪」とかいう謎のフレーズも見えてるってことだよね?

 だとしたら、ここで、はいそうですと言っていいものか。

 ここは笑って誤魔化そう。

 ランチまだー? おなかペコペコ、ぺコリーヌなんですけどー?


「ルイスさんが物件鑑定したら、なんか、アリスさんの管理が必要って、表示されていたみたいと報告されたんだけど」


 あー……なんか、時空神の贖罪ってフレーズに全部持ってかれた感あったけど、そういや備考欄に管理必要なんて表示されてた気がするし……。

 浄化した時にもゴーストさんがこの店を受け取ってくれ~とか言ってた。


「勝手に鑑定してごめんね、本来なら断ってやるべきなんだけど、アリスさん、初めてのクエストだから、ちゃんと浄化が出来ているか僕に鑑定して欲しいっていう冒険者ギルドの方からの依頼があったんだよ。もし、出来てなかったら、僕が浄化することになってた」


 ルイスさんが申し訳なさそうにそう言った。

 勝手に鑑定って、マナー違反だけど、今回のクエストは、よその大陸からきたプリースト見習いの初クエスト。

 しかもめっちゃ初心者風なわたしだったから、浄化の確認はしてくれとサンクレルの冒険者ギルドの上層部からの通達があったと。

 ちょっと過保護かなとは思うけど、実はわたしだけではなくて、このサンクレル周辺での初めての冒険者用の薬草採取場所の保護も兼ねてるからだとか。

 その無断鑑定のお詫びってことで、まずはここの支払いはルイスさんがお支払いするということだった。


「アリスさんはいま『うさぎの足跡亭』を拠点としてるじゃない? 浄化したあの物件に引っ越すの、考えてくれないかな~」


 うーん。

 家賃がただになるのは嬉しいんだけど、買い物不便じゃん。

 食料は自給自足である程度なんとかするとしても、雑貨系の買い物は必要になると思うのよ。

 歩いて一時間半か……。

 その間にスライムとか出てきちゃうかもだし。

 スライムならまだいいけど、もっとすごいの出てきちゃうかもだし。

 回復魔法をかけつつ、街まで買い物?

 そういう不便な感じもあるけど、なんとかするってゴーストさんと約束しちゃったし、あそこキレイだし、静かだし。なんていうかスローライフにはもってこいなんだよねえ。

 誰かと会話するたび、パラメーター出てくるのも疲れちゃうし。

 ここ最近とか特にさ~。宿はいいけど職場がな~。人間関係がね。

 パン屋は週一だからいいけど、今メインのお針子バイトはなんか最近ギスギスしてきてるのよねえ。

 ほら、魅了スキルさんが思いっきり仕事しちゃってるから、店長は男性だから受けはいいけど、同僚の女性からはひいきだなんだって、そういう陰口も聞こえてくるし……。

 不便だけどノーストレス。

 収入面で心配だけどノーストレス……。


「いいですよ、そこに行きます」

「いいの⁉」

「ゴーストさんも、お店をお願いって言ってましたし」

「そうなの⁉」

「はい」


 私がそう返事すると「おまたせしました~香草チキンのランチセットでーす」とウェイトレエスさんがワゴンを押してランチセットを持ってくる。


「よかった~」

 イリーナさんが両手で顔を覆ってため息をつく。

「よかったですね、イリーナさん。あと、契約上今回の鑑定は守秘義務がかかるから、僕は口外しないのでそこも安心してください。アリスさん」

「あ、はい……。別にいまそんなに荷物もないので引っ越すのはいいんですが、問題は食料や雑貨の購入をどうするかですよねえ」

「え? 普通にここまで買い物に来れるよね?」

「いや~スライム一体を二打撃でやっと討伐なのに一時間半をあそこからここまでは」

「……あの、多分、モンスター出てこないと思うよ?」

 ルイスさんは何を言ってるのかな? みたいな感じで言う。

「え?」

「だって。帰り道、途中で、アリスさん鼻歌を歌ってたじゃない?」

「あ、はい……」


 いや、だって「シー・ファング」の皆さんが、歌うまいね~とかヨイショしてくるから、子供みたいに調子にのって、ハミングっていうか鼻歌をご披露しながらサンクレルまで帰還したんだけど……。


「あれで道中、浄化結界されちゃっていたよ?」


「へ?」




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