第9話 『うさぎの足跡亭』の女将さんが相談にのってくれたよ!
「え?」
イリーナさんもぎょっとしてわたしを見る。
「てっきり、初心者の薬草採取場所の確保のクエストの一環かと思ってたけど?」
ルイスさんはそんなことを言うけど、まさか鼻歌で浄化結界とかできるとか思わないよ!
「鼻歌を歌っていただけですよ!」
「そうなの? じゃあ、サンクレルの冒険者ギルドとしては儲けものだね。報酬はもう少し上乗せしてあげてもいいんじゃないですか? イリーナさん」
「……え、はい、そうね、調査をして確定してから追加報酬になる案件ですね」
「よかったね、アリスさん」
「あ、はい」
「じゃあ、僕はここで、またね。アリスさんイリーナさん」
「はい、ありがとうございました。お世話になりました」
カタンと席を立ち上がって、ルイスさんは、爽やかな笑顔で食堂を出て行った。
ちなみにルイスさんは、わたしとイリーナさんの分のランチ代を先払いしてくださったようです。
イリーナさんはなんだか恐縮していた。
魔法使い様は爽やかで、スマートで、イケメンとか……逆ハーストーリーの攻略対象的なムーブ。しかもわたしの魅了にひっかからないとは、完璧じゃないですかー。ヤダー。
それはともかく、わたしは冒険者ギルドを出ると、さっそくアルバイト先に足を運んで、バイト辞めますと申告し、拠点としている『うさぎの足跡亭』に戻って、荷物をまとめ始めた。
ここにきて、たった一か月ちょっとなので、そんなに荷物はない。
ルイスさんが、道中、浄化結界されてるっていうなら、あのお食事処からこのサンクレルまではちょっと遠いけどお買い物できる。でもそうちょくちょくお買い物もな~。お金がな~わたしがあの物件でお食事処すればいいのかなー? 女将さんと違ってお料理上手とは言えない……メシマズではないが、メシウマでもないレベルなのよねえ。
それってどこに相談すればいいんだろ? 商業ギルドかな……? ちょっと寄ってみよ!
「アリスちゃん、引っ越すんだって?」
「あ、はい」
「メルクーア大迷宮都市に行くの⁉」
「どこかのパーティーに入ったの?」
引っ越すことを『うさぎの足跡亭』の女将さんに伝えたら、同じ宿に宿泊している顔見知りのお姉さんたちが声をかけてくれた。
「えっと、サンクレルとメルクーア大迷宮都市の中間地点にある物件の管理を任されて、そちらに移ることになりました」
わたしがそう言うと、冒険者家業のお姉さんたちがわたしをじろじろと見る。
「え~大丈夫~?」
「あぶなくなーい? 一人で?」
おう……見るからに、攻撃力も防御力もなさそうだもんね~僧侶のローブを着てなくて錫杖も持ってない状態だと、ただの出稼ぎの小娘にしか見えないか。
プリースト見習いっていう肩書も、冒険者家業バリバリのお姉さんたちにしてみたら微妙~ってところだもんね。
「よくわからないけれど、多分? 心配してくださってありがとうございます! あ、お世話になったお礼、お姉さんたちに!」
お針子バイトで端切れをちょいちょい貰っていたから、手触りのいい端切れを巾着にして『うさぎの足跡亭』を拠点にしてる顔見知りの人や女将さんに餞別に渡そうと思って用意したの。
「あら~」
「ありがとう~、近くに寄ったら顔を出すわ」
「はい!」
「じゃ、がんばってね~」
「行ってらっしゃーい! ご安全に!」
お姉さんたちを見送ると、女将さんから声をかけられた。
「アリスちゃん、管理を任された物件って、森の入り口の物件かい?」
「はい」
「アニスの物件か……」
「ご存知なんですか?」
「あたしもここは長いからね。アニスはドワーフとエルフのハーフで、長いコトあの場所にいたんだけどさ、あそこサンクレルにもメルクーアに行くにも便利だからっていって、きかなかったんだよねえ」
「お子さんを待ってたみたいですよ?」
「アニスの息子がメルクーア大迷宮でなくなったのはきいたことあるのよ。そこで食事処なんてやってたんだけど……アリスちゃんもやるの?」
「それなんですよねえ」
これが女将さんみたいに料理上手だったり、自分にも料理の自信あるよ! なら、お食事処も復活させてみるか! ってなるけど、食べられないことはないけど、めっちゃ美味しいかって聞かれると、どうだろう……なレベルなんだもん。
「普通に住み込み管理になっちゃいそうで、食い扶持的にはどうしようかって」
「え、そこはお食事処を復活させてくれるんじゃないのかい!?」
「女将さんみたいにお料理上手じゃないと、あんな立地で商売できませんよ!」
商業ギルドに相談したけど、渋かったんだよ!
「アリスちゃん、見た目ふわふわしてるのに、堅実なのね」
「店舗スペースは元からあるから遊ばせておくのもなーとも思います。で、商業ギルドに相談してるんですが、どの職種で店舗立ち上げても売り上げは微妙~って予測なんです」
「そっか~飲食店にするなら相談にのろうかとも思ったんだけど……本格的にお食事処にしないで、お茶や茶菓子を摘まめる休憩所にしたらどうだい?」
――え?
「だって、だいたいここからメルクーア大迷宮まで三時間だろ? 中間地点だから腕のある冒険者はスルーしそうだけど、気分がよかったりしたら一休みぐらいはするんじゃない?」
「そ、そうかな?」
「お茶の一杯ぐらいなら余裕があれば店に入ってもいいなってパーティーも出てくると思うんだよねえ、だって元は食事処で長くやってた場所だし、商業ギルドは立地が悪いって判断してるみたいだけど、そこでも商売にはなったっていう実績はあるんだし」
なるほど? 女将さんみたいにめっちゃ美味しい料理をばんばん出して~っていうのは無理だけど、お茶とクッキーとかケーキとかぐらいならいいかな? 手芸は好きだから、なんか作って店舗に飾って……みたり?
元々、あそこって、初心者用薬草採取エリアって言ってたし、そういう冒険慣れしてない人なら一休みしてくれるかな?
なんだか、ちょっと楽しそうな感じよね?
あらやだ、異世界スローライフできそうなのかしら?
「休憩所か~……ちょっと冒険者ギルドに相談してきまーす」
「店の中ももう一度ちゃんと見た方がいいよ! 下見とか何度やってもいいんだからね!」
「はーい! ありがとうございまーす!」
一度、部屋に戻って、法衣とローブを着て、錫杖を手にし、わたしはもう一度冒険者ギルドへ向かう。
このカッコしてないと、冒険者ギルドの職員さんも、冒険者の人も「あんた誰?」とかなって、食堂でウェイトレスのバイトさせられたことあるのよ。
イリーナさんが慌てて「この人、冒険者! ギルド職員のバイトじゃないから!」と割って入って事なきを得たことが……。
バイト代と、なぜか給仕するウェイトレスさんの制服なんかも頂いちゃったけど。
「イリーナさん、管理物件の相談に来ました~」
「よかった、こっちからも呼出をしようとしていたんですよ!」
イリーナさんは冒険者のクエスト依頼の作業が一区切りついたころ、私が待つブースに来てくれた。
「えーと、例の物件の道中の調査結果、やっぱり結界ついてました。アリスさんの結界ですよね。それで、新人さんにも安全に薬草採取できそうな感じになってるんですよ、なので、上乗せして管理料ってことで月々、これぐらいは冒険者ギルドがアリスさんにお支払いする形にしようってことになりました」
あらやだ、ここでのパン屋とお針子のバイト代を足した金額より上じゃない。
定額でもらえるお金があるのは嬉しい。ま、今後とも、道中や物件の浄化管理よろしくねってことか。
「一応管理するってことなので、わたし、これから例の物件に行こうと思います」
「今からですか?」
「はい。商業ギルドでも相談したんですが、店舗とするには立地的に難しいって言われたんですが、初心者の人がちょっと休憩する休憩所ぐらいにはなるんじゃないかなって、そういうのはどうですか? お料理は商品として提供するにはわたしではイマイチって感じなので、でもお茶とお茶菓子を出すぐらいならできそうかなって」
イリーナさんはしばらく考え込んでいて、頷く。
「元々、お食事処でしたしね、わたしは立ち寄ったことはないのですが、初心者には中間地点ですから、メルクーア大迷宮都市に向かうのにはいい目安にはなりそうです」
やったあ。
「じゃ、さっそく物件の様子見てきまーす!」
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『うさぎの足跡亭のおかみさん』髪・瞳ブラウン
肝っ玉お母さん風の人、サンクレルで女の子専用宿を営む。
宿は女性に人気のお宿。
「可愛い巾着だけど、こんなに小さいなら鍵ぐらいしか入らな……え?
何コレ、アイテムボックスになってるじゃないのさ!!」
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