第3話 とりあえず、生活基盤を整えたいので商業ギルドでお仕事探し。
商業ギルドはこの土地にしては珍しく四階建ての建物。
……お金があるから作れるんだろうな。
前にいた大陸までいろいろ商品が流通されてるみたい。だから船にも乗れたんですけど。
店を持ちたい人とか屋台を出したい人、飲食店のアルバイトや、職人の見習い希望とか職を求める人、あと商品開発の斡旋とかや、商品を売る商店の案内、他国への貿易の手続きに両替とかも。
なんていうか大規模なハローワークといった感じでしょうかね。
建物入るとカウンターがあって、用件によって窓口を案内するというコンシェルジュまでいる……。
受付案内の人に、「アルバイト探してます! できれば住み込みで!!」といったら、色別に分かれてる窓口の中で、青色のカウンターを案内された。
「アリスさんですね……冒険者ギルドのイリーナさんから紹介されたとか」
「魔法が使えるんですけど、迷宮に潜るほどではないので。職種はなんでもガンバリマス」
「えーとそれじゃあ、パン屋さんの仕込みと売り子さんが今、求人がありますよ」
おお~パン屋さん!
「朝早いけど、大丈夫?」
「住み込みOKですか?」
「それがこの街は今住み込みでの求人が埋まっていて、ここから一番近いメルクーア大迷宮都市の方が住環境はすごいから、そっちではありそうですけれど」
うぬぬぬ……。宿泊費が手持ちの金が……マイナスのキャッシュフローよ。
「そこって、ここからどのくらいの距離ですか?」
「あーはい、徒歩だと三時間ぐらいですかね」
お、結構近いか!
わたしの表情を読んだ商業ギルドの受付のお兄さんは眉を顰める。
「アリスさんが行くの? お勧めはできないなあ」
「え?」
「このサンクレルの港町からメルクーア大迷宮都市って確かに近いよ、でも、女の子が一人で行くのはやっぱりお勧めできない。アリスさん、他所の大陸から来た人だから知らないだろうけど、この大陸じゃ、街から街の移動ってそれなりに危険なんだ」
さすが、冒険者が各国から集う迷宮大陸ってわけですね。
薬草採取だって危険と思われたのか、冒険者ギルドの受付イリーナさんからは勧められなかったぐらいだし、モンスターがうようよしてるのかなあ。
他所の冒険者の人達と一緒に隣の町について行くにしても、どのぐらいの料金が発生するかわからないし、一度この街にしばらく腰を落ち着けて様子見て、それから移動するかあ。
物語の強制力によって、魔獣の襲撃にあって死亡エンド……なんて可能性もなくはない。
「あの、これ、朝は早いけど、昼で終わりですね。しかもシフトは一日おき……」
それじゃあ心もとないなあ。
「あと、お針子募集もあります。上手く依頼元と時間調整すればそれなりになるかと」
なんかヒロイン転生を繰り返す前の前世の記憶だと、だいたい一つの職場で7時間労働だったんだけど。
やっぱりあれかな、住み込みのお仕事がないっていうのは……他所の大陸からやってきた若い女の子だからガチ目のお仕事は紹介しても、いきなり辞めて実家に戻るかも――とか思われてるのかな? だから、こういうショートバイトの紹介をされたって感じがしないでもない……。
または物語の舞台に引き戻そうとする強制力かしら? ありえるわあ。
でも……ちょっとの不便を強制力のせいにしたらキリがないし、せっかくこの大陸まできたんだし、異世界生活を堪能するのもいいじゃない。
それに空いた時間、やっぱり冒険者ギルドに行って、わたしでもできる依頼があるか確認できるし……冒険者ってやっぱりロマンだよねー。
「わかりました、その短時間のパン屋さんとお針子さんの求人をかけもちで!」
「はい、じゃ、こちらの紹介カードを持って面接へ向かってください」
二つのお仕事先の紹介カードとお店への地図をもらって、わたしはお礼を言って、商業ギルドを後にした。
パン屋さんとお針子さんのバイトはすぐに採用になった。
前世じゃバイトもなかなか見つからない世知辛い世の中だったもの、それに比べたらね。
パン屋さんは朝が早くて、冒険者の人とお仕事に行く人の朝食やお弁当、主婦の人の買い物なんかでお昼まではお客様が切れない忙しさ。
この忙しさからきっとアルバイトを雇おうってなったに違いないんだけどさ……。
「いや、確かに忙しかったけど、開店一時間で品切れ起こして、午前中にもう一回焼くとかはなかった」
パン屋さんの店長さんのお言葉。
「ですよねえ」
先輩のアルバイトさんもどっと疲れたみたいに同意の言葉を漏らす。
そして、店長と先輩がわたしをじっと見てる。
おお、ここは店長のパンの美味しさを褒め称えろってこと?
いいでしょう、太鼓持ちしますとも!
「店長のパンが美味しいからですよね!」
まあ実際美味しいし、元々、大人気だったのよね?
「いやいやいや」
「わかってないわー、ヤバイ子雇っちゃったなー」
ガーン! ク、クビ!? わたし、何かやっちゃいました!?
商品のお渡しミスも、釣銭ミスもしてないですよ!
「あきらかに、アリスちゃん目当てのお客が増えてんだよ」
「はい?」
コテンと首を傾げる。
先輩がこの商業ギルド貸与の魔導ボード、前世でいうところのタブレットみたいなのを取り出して、なんか街の案内コミュニティの中で雑談専用のスレッドだかフォーラムだかを開いてわたしに見せる。
スレッドタイトルといい、なんだか前々前世でみたことある巨大掲示板みたいじゃないですかー。ヤダー。
「これだよ」
タイトル:町で見つけた一推しの子を報告する
『朗報、『ふんわりふかふかベーカリー』に新しい売り子ちゃんが現る』
『ピンクブロンドとガラスみたいなブルーアイズの可愛い子だろ⁉ 見た見た!!』
『ふ、オレは名前を知っている。アリスちゃんだ!』
『アリスたん! 可愛い!!』
『ぺろぺろしたい』
『誰だ、今不穏な発言をしたやつは! やめてくれ! ちょっとでも不穏な発言が見つかったらこのスレ強制削除なんだぞ!』
『アリスたんとスレはオレが守る!!』
『シフトは週明けからだいたい一日おきで出勤だ! しかも早番!!』
『パン屋さんの早番なんて、朝もはよから働き者だなー』
『オレなんか今日、「お仕事頑張ってください」とか言ってもらえたもんね!』
『なんだと!?』
『おい! アリスたん、冒険者登録してるぞ!』
『ナンダッテ―!』
『イリーナさんが簡単な薬草採取を紹介するのも躊躇って、商業ギルドを紹介したらしいぞ!』
『え……もしかして、アリスたんと迷宮潜れたって……こと⁉』
『イリーナさん! 殺生な!!』
『いや、落ち着け、おまいら、そのおかげで俺達のアリスたんがシフトの時、朝、店頭で俺達に「いってらっしゃい、ご安全に」って手を振ってくれるんだぞ!』
『アリスたん! カワユス!』
『尊死する!』
などなどが書き込まれていた……。
魅了スキルも頑張って仕事をしていた――……そういうこと?
「ク、クビですか⁉」
「いや……その週一回でお願いしたい」
店長が非常に言いにくそうにそうわたしに告げる。
忙しすぎて客がさばききれないということで、せっかく決まったアルバイトの日数が減らされてしまうという事態になってしまったのだった。
魅了スキル……どこまで祟るのか……。
あーあー、がっくり。
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