第2話 強制力から逃れる為に、別の大陸に移動した。



 えーまず、今回のわたしの役どころは、定番の公爵(悪役)令嬢のライバル、神聖魔法持ちのヒロインです。

 神聖魔法と魅了スキルがあるってことで、公爵家の養女となって、婚約が決まってる王太子の婚約者を蹴落として、婚約して結婚するヒロイン役でした。


 正式な婚約者であるユリシア様も転生者なんで、断罪ルートを回避するために頑張ってフラグバキバキに折って、王太子殿下からの好感度は高い。

 これは多分、彼女こそが王太子殿下とハッピーエンドになる。

 ま、いつものパターンだね。

 なので、王太子殿下にも協力してもらって、この国からの脱出を計りました。

 対価はわたしを引き取った養家であるドリアス家のちょっと後ろ暗い情報。

 これが、王家には嬉しい情報だったようで、王太子殿下はユリシア様と結婚できそうだしで、身分証の偽造から、国外脱出の手配から、旅費からもろもろ全て用意してくださった。

 ありがたい~。


「でも、大丈夫なの? 別の大陸まで行くなんて……」

 ユリシア様は心配そうに声をかけてくださった。

「大丈夫です! ヒロイン断罪ルートで島流しエンドもやったことありますよ!」

 わたしがサムズアップしてそう言うと、「そんなこともやったんだ……」と思いっきり同情した顔をしていた。

「とにかく、別の大陸行っちゃえば、強制力もさらに薄まると思うんですよ、そんなわけで、準備も整ったことだし出発します! お世話になりました! 二人で幸せに暮らしてください!!」

 波止場でわたしを見送ってくれたユリシア様と殿下に手を振って別れた。


 船に乗って、一週間、わたしは別大陸に降り立った。

 さてこのサザランディア大陸は、迷宮を抱える大陸で、他所の国からも冒険者がたくさんやってくる。だから通貨の両替は商業ギルドか冒険者ギルドのどちらか。

 両替に関してはわりとすんなり通る国でよかった。そういうところも、殿下は考えて手配してくださったのよね。さすが物語のヒーローしごできすぎる!

 冒険者ギルドで両替をして、ついでに冒険者登録もしておく。

 これで身分証は二つ確保。

 ここでまた強制力がかかってどうにかなっても、この冒険者の身分証があればどこの国にも行けそうじゃない? だから両替と一緒に冒険者登録できる冒険者ギルドに来たのよ。

 カウンターにいると、周囲の冒険者たちがそわそわしている感じがする。

 視線が痛い。

 何だろう、周囲の人がもの言いたげなんですけれど。

 あ、もしかして――……これが冒険者ギルドに入った初心者にマウントかましてくるベテラン冒険者の視線というやつなのかしら!? 

 冒険者ギルドのお約束、伝説のアレが! 始まってしまうの!?

 心の中でそう思っていると、受付のお姉さんから声がかかる。


「では、アリスさんの口座や冒険者の登録済みました」

「ありがとうございます」

「宿はお決まりになりました?」

「あーまだです」


 そう言うと、わたしの横に、冒険者の人が立って「ンン……」と軽い咳払いをしてから声をかけてくる。


「お嬢さん、お名前は? この国は初めて? 宿が決まってないなら案内するぜ?」

「てめえ、ふざけんな! どんな宿を紹介する気だ!」

「抜け駆けしてんじゃねえよ!」


 一人が声をかけたら、次々と冒険者の人がわたしに声をかけようとしてくる。

 ん……ん……こ、これはもしかして、まさか……新米冒険者に対してのマウントではなく……魅了!? 魅了が効いてるのかな⁉ ここにきて魅了発動!?

 大陸越えて強制力はなくなった(薄まった)かもだけど、魅了は健在って事!?

 わたしがおろおろしていると、カウンターのお姉さんがバンっとカウンターを叩いて、冒険者たちを一括する。

 その眼鏡の奥では「お前等、仕事の邪魔すんな」と目が訴えてる。

 わたしを取り囲んでいた冒険者たちはすごすごと、カウンターから離れて行った。


「あ、ありがとうございます。できれば、冒険者の宿を教えていただけるとありがたいです」

「ここを出て大通りを左に、三つ目の辻をまた左に入った『うさぎの足跡亭』がいいと思います。女性の冒険者の方が利用しているので主人も女性ですし安全ですよ」


 受付のお姉さんはにっこりと笑って、宿を紹介してくれた。

 銀貨が2枚で一泊朝食付き、昼食と夕食は別料金になるお宿だった。

 女性専用で、共用だけどお風呂もついてて、嬉しい。

 冒険者ギルドの受付のお姉さん、わかってるう。

 別料金で夕食も頂いて、お風呂も頂いて、新大陸一日目を無事終えた。

 さて、翌日は女将さんの美味しいスープとパンとサラダを頂いて、冒険者ギルドに向かう。

 わたしでもできる依頼はあるかな~。

 ここは迷宮大陸だけどいきなり一人で迷宮探索とかは無理ゲーすぎる。

 まだ物語の強制力が残っていて、悪役令嬢がハッピーエンド、ヒロインのわたしは愛し合う二人の前から消え、別大陸の迷宮に潜り死亡エンドっていうのもありそうでしょ。

 ここは慎重に依頼を選ばないと。

 やっぱり薬草採取から始めるのが定番よね!

 目指せスローライフなんだけど、お金は必要じゃない?

 強制力に乗っかっていれば断罪処刑ギリギリまでは衣食住は保証されてたけど~やっぱ生きるって生活だから~。ヒロインに転生してこんな堅実さとか初めてだわ!

 掲示板の依頼を見ていると、また、背後から視線が。


「ど、どうしたの? 何か依頼するの?」


 ガラが悪そうな感じの強面の冒険者が声をかけてくる。


「いえ、わ、わたしでも、できそうな依頼が無いかなって」


 返事をするも、自分の魅了効果が発動されているのがわかる。

 目の前の冒険者の好感度のパラメーターが見えてるし、おまけに好感度以外のパラメーターも見えてる。冒険者ランクからジョブからステータス一覧に備考には性格やら何やらぜーんぶ見えちゃう。大陸を越えるとパラメーター強化されるとかそういう感じ?


「アリスさん」


 昨日、担当してくれたダークエルフの受付のお姉さんが助け船のように声をかけてくれる。

 またガラの悪い連中に絡まれてると思われたかも?

 お姉さんの声掛けに、わたしに近づいて来ようとしていた冒険者が躊躇っているようだ。きっとお仕事できる人なのね! 


「さっそく依頼? よかったら相談に乗りますよ?」

「ありがとうございます! お願いします」


 カウンター横の小さいブースに席を用意してくれて、イリーナさんに相談する。


「えーと実は、わけあって、コーデラインズ大陸から来たのですが、とりあえず、冒険者登録をしたのが昨日で、本当に初心者なんでいきなり迷宮に潜るのもちょっと自分的には心配で」

「そうですね、ここは迷宮大陸ですから、冒険者は迷宮へ行ってそこでのアイテムや討伐した魔獣なんかの部位を換金していくのが主な活動なのですが……アリスさんは、この大陸に渡る時の身分証とかも実はお持ちではないですか?」

「はい、持ってますが……」

 王太子殿下が用意したのは、コーデラインズ大陸のサリダス教会の修行僧っていう身分証なんだよね。

 このサザランディア大陸はいろんな国から人がやってくるから、宗教にこだわりがない分、宗教間の争いをご法度としている。純粋な宗教家ならまず足を運ばない土地。

「なるほど……修行僧でしたか」

「見習いも見習いなんです。わたし自身宗派のこだわりがなく、そこをお気に召さなかった熱心な教会からまあ、ちょっと外に出て修行してこいと。なんなら還俗してもかまわないと」

 もちろん嘘です。

「そうでしたか……いろいろご苦労されたんですねえ。若いのに……ふむふむ、魔法は使えるんですね。神聖魔法ですか。ここでは白魔術師みたいなものかしら?」

「そうですね~回復と浄化と結界と付与ですかね、見習いですからそんなに大したものではないですよ」

「うーん……回復があるのは嬉しいですけど、戦闘もなくはないですから……実は、アリスさんが冒険者登録された時に、貴女が迷宮に潜るところをイメージできなかったんです。冒険者家業は命を張るものだから」


 ……やっぱり……無理ゲーだったか。


「そこで、お勧めするのが、商業ギルド。こちらに足を運んでみてはどうでしょうか」


 手っ取り早くバイトを斡旋できる商業ギルドの方が、わたしみたいな冒険者になるにはちょっと心もとない人でもお仕事を紹介してくれるというのだ。

 なるほど!

 迷宮大陸だから冒険者になって迷宮に~なんて、安直に思ってたけど、それなら収入は定期的だし、危険度もないし、仕事も多そう!

 せっかく迷宮都市に来たのに、冒険者にならないなんて様にならないけれど、「イノチダイジニ」で手堅く生活基盤を整えるなら商業ギルドでお仕事紹介してもらうのがいいかもしれない。

 わたしはイリーナさんにお礼を言って、商業ギルドへと足を向けるのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 イリーナさん:冒険者ギルド受付お姉さん。

 ダークエルフ族、金髪、褐色肌、緑瞳に眼鏡。

 受付ではベテラン。ギルド職員としては中堅。

「なんかふわふわした新米プリーストが冒険者登録してきた!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る