元聖女のざまあヒロイン、強制力から逃亡しスローライフをおくりたい!

翠川稜

第1話 今世もヒロインだった!



 流行の悪役令嬢ハッピーエンド系の物語のヒロインってどう思う?

 そう、ざまあされる人ですよ。

 悪役令嬢こそがヒロインじゃない? そしてヒロインが悪役でしょ。

 わたしは、この悪役令嬢が活躍する物語の中のヒロインに生まれ変わった。

 しかもこれが初回ではない。

 悪役令嬢が何度も同じキャラに死に戻りしたりするのとはちょっと違って、いろんな物語のヒロインに転生転生また転生を繰り返してきた。

 最初はね、乙女ゲーヒロイン、もしくは少女漫画、もしくは女性向けライトノベルに転生! やったああ!! な感じだったよ。

 男爵家の養女が学園に入学すると逆ハ―状態に。

 名もない村から不意に現れた聖女が王太子妃候補に。

 姉の婚約者から想いを寄せられる病弱な義妹。

 あとなんだ、「キミを愛することはない」とか言っちゃう男の本命ですか。

 いろんなパターンの物語のヒロイン、やらせていただきました!


 そんなわたしが体験してきたヒロイン人生。

 もう疲れた。

 この一言ですよ。


 確かにヒロイン転生した最初の時は、ノリノリでした。

 見目麗しい紳士からちやほやされる状態になったら、物語に沿ってヒロインハッピーエンドルート目指してやっちゃうでしょ。つけあがっちゃうでしょ。

 だって人間だもの。

 けど死亡エンドで「うん? なんか違う?」となったわけです。

 これが二度、三度となると、あきらかにおかしいと。

 毎度毎度、断罪されてざまあされて、死亡エンドを迎えるのは悪役令嬢ではなく、ヒロインのこのわたし。

 ヒロインなのにヒロインのハッピーエンドが絶対にない。

 ヒロインはヘイト集めまくりの悪役。

 ライバルの悪役令嬢こそが主役。

 そんなさまざまな悪役令嬢ハッピーエンド系の物語世界に転生を繰り返してきた。

 さすがに、ここのところは、物語から脱出するぞと思って頑張ってました。

 だがしかし。

 がっつり効果発動される物語の強制力。

 こっちは心の準備もその気ないのに、フラグがバンバン立ち上がってくる。

 そんで心にもない、そりゃ無理でしょっていうセリフがバンバンでてくるのよ、この自分の口からね!

 生粋の貴族令嬢の方に対して「ひどいわ、どうして悪役令嬢様はわたしをイジメるの?」とか、「真の聖女は力がないから」といいつつ手柄横取りとか、あと格差姉妹でいえば定番の「お姉様ずるいずるい」ですか。

 恐ろしい程の自己肯定感。

 一言喋るごとに承認欲求と凶暴性がさらに倍。

 そしてまたこれが止まらない。

 ――ひいいぃぃぃ、このままだと、また、ざまあされちゃうコースううぅぅ。

 魂の奥底でそう悶絶しつつも、ギロチン処刑をはじめ、投獄とか、国外追放とか、一家処刑とか、娼館コース、悪役令嬢が隣国に嫁いで、大戦争の末に王国滅亡なんかもあったわー。

 一通りのざまあされてきました!


 まじ前世でわたし何かやっちゃいました?


 栄枯盛衰をこんだけ体験した魂もそうそうないと思うわけ。

 さすがにね、疲れたのよ……。

 そろそろ、選手交代してもいいのでは?

 もう少しタフな魂をヒロインに据えるべきじゃないの?

 ていうかさ、一回ざまあされたら「はいここでチェンジ」ってならないもんなの?

 異世界転生なら、物語転生なら、素敵な恋を~なんて、初めは思いましたよ。

 だけど、ここまでヒロインやるとね、初回でおなか一杯です。

 オマケに強制力の効果で、どの物語のヒロインになっても、ちやほやしてくれるイケメンのセリフがRPGのNPC並のボギャブラリー感が強くて萎える。

 そのくせ、何度も繰り返されておなか一杯なはずなのに舞い上がるという、感情のコントロールができない状態異常に陥ります。

 例の悪役令嬢断罪シーンあるでしょ。


「オレは真実の愛を見つけた! 彼女こそ運命の女性なんだ!」


 何回もヒロインのわたしに「はわわ~」ってさせる感じのあれ。

 悪役令嬢が「ガーン」ってくる感じのあれ。

 絶っ対、強制力が入ってる気がする!

 実はこのセリフが、悪役令嬢ハッピーエンド系のフラグなんじゃないかなと思うわけ。

 前回、このセリフが出た時には「ヒロインのざまあルートを解放しました」の強制力の声が聞えた気がしたわ。

 このフラグがきたら、ざまあ回避ルートはもうないから。

 ヒロインバッドエンド一直線のはじまり。

 今回、ざまあされて死亡エンドを迎えたら、魂消失する気がする。

 なんでこんな空想二次元異世界に何度も生まれ変わって、何度もヘイト集めて、何度もざまあされて、何度も断罪されて、何度も死ないといけないの⁉

 いやーもーいいでしょ!

 今回こそは、物語の強制力から離れたい。

 で、今回……。

 魅了は効いてるけれど、下手な言葉とか突飛な行動とか、悪役令嬢様を貶める言葉とかも全然この口から出てこない。

 このパターン初めてじゃない?

 わたしもね、伊達に何べんもざまあされて死んだわけじゃない。

 ループする悪役令嬢並みに死に戻ってるこのわたし。悪役ヒロイン(わたし)がざまあされた体験から推察するに、こういう強制力の少ない場合はヒロインがバッドエンドながらも物語終了後の処遇がマイルドなんですよ。

 そこで思った。

 強制力が弱い今回、この物語からの逃走ルートが確保できるかもしれない!

 だいたいなんで悪役令嬢だけが異世界満喫してるのですか? ずるいずるい!(おっといけない、この妬みが強制力か?)

 とにかくイケメンはもういい。いらない。

 ざまあされまくって疲れ果てたこの魂には、癒しのスローライフ。もしくは、わくわくの冒険譚が必要なんです!

 ざまあルート、強制力からの逃亡、ガンバリマス!


 というわけで、毎度毎度、物語の強制力にいい感じで縛られているわたしですが、今回、希望が見えている。

 まず、相手の悪役令嬢が転生者であり、こっちにさぐりを入れようとしている。

 物語ヒロインの攻略対象者である王太子の反応が薄い。(魅了が効きにくい)

 わたしは、この物語の悪役令嬢――王太子殿下の正式な婚約者とコンタクトをとることに成功する。

 身体、張りました!! 定番の学校の階段落ち! ここガチで落ちましたよ‼

 強制力が効いてる時なんかはね、軽微の負傷で済むようなわざとらしい階段落ちをするようになってるけど、今回、もうここで死んでもいいっ! ぐらいの勢いでやりましたよ! その結果。

 見合った対価を得たよ! 悪役令嬢(主役)とのコンタクトに成功!

 悪役令嬢が心配そうに気がついたわたしの側にいて看病してくれてた。(優しい)


「お気づきになられました? アリス様」


 おお、今回の(主役)悪役令嬢ユリシア様が声をかけてくれる。黒髪に深いグリーンの瞳で、めっちゃ美形! 毎度思うけど、悪役令嬢の方って顔の造作が美人系なの、素敵。いいなあ。


「ここは?」

「わたくしの家です」


 なんでも、三日ぐらい気を失っていたとか。

 わたしはユリシア様の手をガシッと掴んで声を落とす。


「ユリシア様は転生者ですか? 事情があって、わたしは、この国を離れたいのです。お答えによっては、いい情報も差し上げます」

「この国を出る……って、神聖魔法保持者だからこそ、ドリアス公爵家の養女になられたのに」

「そこはわたしが望んだものではないからです。で、転生者ですか?」


 わたしが必死の形相で詰め寄ると、彼女は頷いた。

 OK、話は速い。

 わたしがこれまで幾度となくヒロインとして数々の物語の中で死に戻りを繰り返していることを説明すると、彼女はあっけにとられていた。


「とにかく、この強制力から離れた生活がしたいんですよ!」

「そこまで死に戻りを繰り返されると、確かに強制力は呪いのようなものですものね」

「ええ、呪いです。でも今回、その強制力が弱いんですよ。だから、この国から去れば、もしかしたら、今生を普通に寿命まで生きられるかもしれない」

「でも……やっぱり普通に若い女性が一人で逃亡は難しいのでは?」


 だからそこは、もう一人協力者を増やしたい。

 誰かって?

 この人の婚約者でこの国の王太子殿下ですよ。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 主人公アリス:ピンクブロンドにブルーアイズ

 何度も悪役令嬢ハッピーエンド系の物語のヒロインをやってきた。

「わたし何かやっちゃいました? 

 もうそろそろ物語転生(強制力)から逃げ出したい」


 ユリシア公爵令嬢:悪役令嬢転生者

 黒髪、グリーンアイズ。

「ヒロインが大人しかったので不思議に思ってたんですよ……」

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