第18話 赤い瞳の少年

「とは言え、描きたい画は

もう一通り描いたんだよね

何か新しい刺激が欲しいんだけど…」

長年理想の少年の姿を描き続けた筆は

新たな出会いを求めるが

そうそう機会に恵まれる事はなく

またいつもの理想を描くのだと悟る


「先生おはよー」

「おはざーす」

「はい、おはよう」

2人が所属するクラスを担当する

教師に挨拶をして

自分のキャンバスが待つ椅子に腰かける

「今日は事務所さんから

モデルさんに来ていただいてますので

それぞれ好きに描いてくださいね」

教師の言葉に応えるように教室のドアが開く

ゆっくりと歩みでたのは…

白い毛髪、色素のない肌、

そして、血が透けた赤い瞳の少年

「白井聖音(しらい もね)14歳です

今日はよろしくお願いします」


少年の姿に目を見張る

教室がざわついたが

教師の手を叩く音で

皆キャンバスに向き直る


「なぁ、先生いいのか?あれ」

晃は奈子を顎で指す

奈子の横顔には

陶酔するような興奮が滲んでいた

「彼女の描く絵には

彼女の憧憬と理想が詰まっていて

既にコアなファンが居る程の魅力がある

だがそれは憧れで作られた物でしかない

彼女の絵に現実が合わさった時

それはきっと彼女の絵を今よりも数倍

魅力的にしてくれると思うんだよ」

教師は静かに語ると椅子に座り直して

教室を静観する

「ふーん…」

教室の中央、椅子に腰掛ける少年は

笑みを湛えていて

見ている者の胸を騒がせる


「ねぇ、お姉さん」

モデルデッサンが終わり

声をかけてきたのはあの赤い瞳の少年

「白井くん?なあに?」

努めて冷静に少年に視線を合わせて応える

少年は耳元に口を近づけて

こっそりと耳打ちする

「お姉さん、ボクのこと…買う?」


ゆっくりと微笑む少年は

私の中に確かな刺激を残した

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