第16話 紅葉と少年
晃から秋の展覧会に出す絵を
描くようにと言われた
秋らしいもの、紅葉、落ち葉、読書、食べ物…
頭を抱えていると翔と良が
修学旅行のしおりを持って
話しているのが目に入る
「あ、夏月、私達も行こう京都」
「は?」
玲さんから許可を得て
一泊二日の京都旅行に向かう
夏月の学校は初夏の頃に
修学旅行を終えたらしい
「なんで、おれまで?」
行きの新幹線の中で夏月がボヤく
確かに連れて来る必要はなかったと気づく
「何となく?夏月が居た方が
筆がのるかなって」
夏月の姿を描いていた2人きりの時間を
思い出す、あの時間が私にとって
心地の良いものだったのだと気づく
京都に着き観光地を巡る
何枚か写真を撮り見たままを
スケッチブックに描き込む
そんな退屈な時間も
夏月は隣りで大人しくしてくれている
「「きなこ(ちゃん)!夏月ー!」」
少し遠くに制服を着た小学生の一団が見える
手を振る翔と良に手を振り返す
翔は2人だけで行くなんてずるいと
こぼしていたがしっかりと楽しんで居る様子だ
粗方の取材を終え宿に着く
いくら手のかからないとは言え小学生1人に
一部屋は使えず同室になってしまった
一日の疲労に耐えきれずベットに雪崩込むと
すぐ隣りに夏月が横になる
いつもは身長分遠のく顔が近くにあり
ドキリとする
「楽しめた?今日」
丸一日取材に付き合わせてしまって
うんざりしているのではないかと不安になる
「ああ、楽しかったよ」
いつもとは違う柔らかな笑顔で言う
久しぶりの遠出に舞い上がってしまっていた
やはり夏月を連れて来るべきではなかったと
反省して目を背ける
夕飯を済ませ大浴場から出ると
中庭に夏月の姿があった
「夏月?こんなとこでどうしたの?」
夏月は中庭に植えられている
紅葉の木を眺めていたようだ
「なこ、紅葉撮りに来たんだろ
これも良いんじゃね?」
夏月の視線を追うと夜空に浮かぶ赤い紅葉
足元を照らす光が反射して
キラキラと輝いている
「本当だ、綺麗だね」
「ああ、綺麗だよ」
夏月に視線を戻すと目が合う
「体、冷やすといけないから戻ろうか?」
「ああ、」
京都旅行から戻ると絵を描きあげ晃に渡す
「おー、良いんじゃね」
また、本心か怪しい褒め言葉をもらす
晃に渡したのは昼間に取材した紅葉の寺院の絵
「また、適当な…」
私の言葉に晃が言葉を付け足す
「無難でいい絵だよ、
売ればそれなりには値がつく」
言い放つ晃の目には呆れたような
寂しげな影がある
「はいはい、そうですねすみません」
晃の期待に応えられない事を詫びる
あの日の夜スケッチブックに描いた
夜の紅葉と夏月の横顔は
そっとしまっておく事にした
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