第14話 誕生日

「よお、ガキども」

当たり前の様に訪ねる晃を

3人が苦々しい顔で出迎える

「きなこ、今いないよ」

丁度すれ違うように買い物に出かけた奈子は

不在、それでも構わずに晃はずけずけとあがる

「じゃあ、中で待つ」

リビングのソファーにドカッと腰かけ

勝手に入れた茶を飲む

「きなこが最初の頃のぼくに寛容だった理由が

わかった気がする」

「翔くん図々しい自覚あったんだ」

呆れるように口にする翔に良が毒づく

夏月が少し考えてから口を開く

「あんた、なこと付き合い長いんだろ?

おれ達が知らない

なこのことなんか知ってる?」

夏月の言葉に翔と良も興味あり気に晃を見る

「え?あいつの事?」

ぽかんとしてから、頭を捻る

「あいつ、下手な事言うと

怒りそうだしな…あ…」

何かを思いだした晃の声に3人の注目が集まる

「来週、奈子の誕生日だ、」


「ちょっと買いすぎたかな」

数日分の夕飯と少年達へのお菓子で

いっぱいになった買い物袋を抱え帰宅する

家に着くとリビングに晃の姿があった

「「きなこ(ちゃん)おかえりー」」

「ただいま、お留守番ありがとう、夏月も」

出迎える2人に返事をし夏月に目を向ける

夏月はいつも通りにフイと目を背ける

「で、晃は何しに来たの?」

買って来た物をしまい入れてから

晃に要件を聞く

「俺は用が無きゃ来ちゃダメなのかよ、

まあ、仕事の話しだけど」

仕事の内容を聞くために2階にあがる

背後で翔と良が何やらヒソヒソと話す

「…?」


1週間近く、少年達が訪ねて来ていない

最悪の事態を想像してしまい

保護者に連絡を取るべきかと考え

スマホを手に取るが止める

(単に飽きただけかも…

3人は仲が良いから他の場所でも遊べるし)

もう来ないかもしれない

そう思うと気分が沈む

ふと、チャイムの音が響く

駆け足で迎えると晃の姿

「なんだ、晃か…」

「なんだとはなんだよせっかく…

いや、何でもねえ」

「…?」

言い淀む晃に疑問の目を向けるが

晃は目を合わせようとしない

「お前、今日予定は?」

「ないけど…?」

「まあ、そうだよな」

失礼な独り言を呟いてから

晃が私の手を引いて車に乗せる

「え、?ちょっと!?」

カチャカチャと勝手にシートベルトをかけて

運転席にまわる


「これ、どこ向かってるの?」

「んー?もうちょっとしたら見えるよ」

しばらく車を走らせ一軒の家の敷地に停める

「ここって?」

西洋風の立派な一軒家、私の家の倍近くはある

スタスタと先を歩く晃を小走りで追いかける

家の中に入りドアの前で立ち止まる

「お先にどうぞ?」

仰々しい仕草でドアを指す

「…?」

不審に思いながらもドアに手をかける

そっと開けると

パーン!と複数の破裂音

「「きなこ(ちゃん)お誕生日おめでとう!」」

一瞬呆気に取られてしまう

目の前には翔と良、2人の手に持たれた

クラッカーが先程の破裂音の正体のようだ

「おめでとう」

目を逸らしながら無愛想に言う夏月の手にも

鳴らした後のクラッカーが握られていた


「びっくりした?」

目をキラキラと輝かせて翔が聞く

「うん、とっても」

私の言葉に満足気に微笑む


「奈子さん、おめでとう」

声をかけて来たのは翔のお母さん

どうやらここは翔の家らしい

隣には見かけない女性の姿

「おめでとうございます」

控えめに祝いの言葉を述べる彼女に

頭を下げると、良が彼女に駆け寄る

「お母さん!」

「良太郎くんのお母さん、?」

にこやかに微笑む2人の姿は確かによく似ている

少し距離を置いて夏月の父親

玲さんの姿も見える玲さんは目が合うと

にっこりと笑顔を返す

(保護者もいるならもうちょっと

ちゃんとした格好で来たかったなー)

ぼんやりと考えながら晃に目を向けるが

当の本人は翔と談笑しながら

立食を楽しんで居るようだ


「奈子さん、おめでとうございます」

翔と良のお母さんに挨拶を終え

軽食を物色していると玲さんに話しかけられた

「ありがとうございます

びっくりしましたよサプライズなんて」

玲さんと話していると

間に割るように夏月が入る

「夏月ありがとうね、お祝いしてくれて」

「別に、あいつらがするってうるさいから…」

いつもの仏頂面だか

心做しか楽しそうに見える

「きなこー!」

翔が私を呼ぶ歩み寄ると

ぎゅっと抱きしめられる

「お誕生日おめでとう、きなこ」

改めてもう一度祝いの言葉を翔が口にする

「うん、ありがとう翔」

感謝の言葉を返して翔をぎゅっと抱きしめ返す

今日だけは少年を抱きしめる

この手を許されるだろうか

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