第12話 少年を描く

「おれ、見たんだ…

2階の一番奥の部屋、なこのアトリエ」

頭が真っ白になる

心臓がドクドクとうるさい

あそこにあるのは【私の欲】

どんなに手を伸ばしても届かない

手を伸ばしてはいけない、少年の姿


「すごいな、あれ」

夏月から放たれた言葉は予想外の物で

反応が遅れる

「仕事部屋って言ってたけど絵描いてんだな」

「ああ、うん、そう」

鈍い反応を返す

夏月にとってはただの肖像のようだ

「ねえ、おれの事も描いてよ」

ずいと近づき夏月がイタズラな笑顔で言う

「夏月を…?」

困惑の声がもれる

夏月の笑顔には有無を言わせない物がある

仕方なしにアトリエへと向かう

夏月への違和感には気づかないフリをした


アトリエに着くと【微笑む少年の絵】を

壁に立掛け埃を被らない様に布を被せる


「おれ、どうすればいい?」

夏月の問いかけに少し考える

「そこのソファーで楽にして」

部屋の隅にある

赤いベルベットのソファーを指差す

ソファーに座る夏月を横目に絵の準備をする

使い慣れた鉛筆を取り

キャンバスをイーゼルに掛ける

椅子に腰掛けて夏月に目を向ける

こちらをじっと見つめる夏月に

ギョッとしてしまう、その目はまるで

私の奥にある欲まで凝視するように思えた


「そんなに見なくてもいいよ?楽にして」

私の言葉に夏月はつまらなそうに視線を外し

ソファーに身をもたげる

夏月の目から逃れた事に少し安堵し

鉛筆を走らせる

少年の横顔は憂いを帯びていて

その思考はなかなか読めないでいる

もっとも元々対人関係に疎い私には

無理な話しかもしれない


しばらく鉛筆を走らせ

大枠の構図が決まったころ

夏月の寝息が聞こえてきた

どうやら慣れないモデルに疲れたらしい

ブランケットを持ってきて被せる

端正な横顔はその瞼が閉じられてなお美しい

この少年はどこまで気づいて居るだろうか

私の内のドロドロとした感情に…

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