第6話 少年とお泊まり

日が暮れて空が赤く染まり出した頃

3人の少年は満足した様子で帰路に着く

1日歩いた疲労がこたえて

それを体を伸ばして誤魔化す

どうやら少年達もそれは同じな様で

口数が減りポツポツと今日の出来事を振り返る


ゲームショップで翔がありえない量の

ゲームソフトを買おうとしていたり

夏月はUFOキャッチャーが上手く

良太郎にぬいぐるみを取ってあげていたり

良太郎は小さな体の何処にそんなに入るのか

クレープやドーナツを食べ歩いていたり


「なんだか帰るのが惜しいね」

ポツリと翔が呟く

夏月と良太郎も同じ気持ちな様で

少し名残り惜しそうな笑みを浮かべる


「いっそこのまま皆でお泊まり会しない?」

また突拍子の無いことを、と思ったが

夏月と良太郎が強く同意してしまう

「ええ、今から?どこに?」

「それはもちろん!きなこん家!」

無茶を言わないで貰いたい

ふと、夏月に近づき

声のボリュームを落として聞く

「今日は、ちゃんと帰る?」

一瞬驚いた顔をしたあとニヤリと笑って言う

「ああ、もちろん」

(嘘だ...)

この笑顔は泊めないなら

また何処かに消えると言う脅しだ...


聞かなければ良かったと後悔しながらも

断ると言う選択肢は無くなってしまった


4人分の夕飯の食材を買い

家に着くとそれぞれの保護者に電話する

夏月は少し渋ったが家の連絡先を教えてくれた

電話口に出たのは男性だった

男性は初めハッキリとした声で電話に出たが

夏月の話しをすると

少し疲れたように相槌を打ち

「そうですか...」とだけ言い電話を切った

スマホを耳から離すと

夏月がこちらの様子をじっと見ていた

「一応、許可は取れたかな」

「そう...」

私が言うと何かを諦めた様な顔で返す


3人に手伝ってもらいながら

夕飯の準備をして席につく

久しぶりに作ったカレーは

存外に良く出来ていた

「ん...美味しい」

「うん、すごくおいしいよ」

「とっても美味しいです!」

口をついて出た自賛の言葉は

翔と良太郎に肯定されて少しむず痒い

夏月はやはり無言でかき込んでいる

「...うまい」

ボソリと呟いた言葉が嬉しくて

しばらく耳から離れなかった


空になった鍋を洗っていると

良太郎が食器を持って寄ってくる

「良太郎くん、ありがとう」

ふと昼の事が過ぎる

洋服店の前でワンピースを憧憬するように

眺めていた良太郎の横顔

それとは裏腹に男性的である事を求めるような

少し古風な名前

名付け親のお爺さんはとても厳格な人のようで

良太郎の話しに度々現れる


「ねぇ、良太郎くん私も翔見たいに

良くんって呼んでも良い?」

別段意味のない事だとは分かっている

ただの私の気の持ちようだ

「え?」

「友達同士の呼び名ってなんだか

素敵じゃない?」

困惑の声に、繕うように理由を述べる

「じゃあ、ぼくもきなこちゃんって呼んでも

良いですか?」

良太郎が少し期待するような目で私を見つめる

「もちろん」

初めは困惑したが今では気に入っている愛称で

呼ぶ事を承諾して私達は友達になった


それぞれがお風呂を済ませて

小上がりの和室に机を畳んで布団を敷く

来客用の布団は2組しかなかったが

3人が寝るには十分な広さだ

「じゃあ、私は2階で寝るから

何かあったら呼んで」

そう言って立ち上がる私を翔が止める

「ええ、きなこ行っちゃうのー?」

「当たり前でしょ?」

あえて冷たく言い放つ

こればかりは簡単に折れられない

「きなこちゃん、せっかくのお泊まり会だし、

一緒に寝よう?」

良はこちらを伺うように見つめる

その目はズルいと思う

助けを求めて夏月を見る

夏月なら拒否してくれると思ったからだ

「......」

目が合った夏月は数秒考えた後...

自分の隣りをポンポンと叩く

諦めろと言うらしい


致し方なしに3人が寝静まるまで

布団の中でジッとする事にした

くっついて寝ようとする翔を制して


...いつの間にか少し寝ていたようだ

隣りの翔を見ると静かに寝息をたてていた

色素の薄い肌、長いまつ毛、耽美な顔立ち

こんなに間近に見るのは初めてだ

いつものイタズラな笑顔は無く

まるで人形のような美しい寝姿、

呼吸の度に上下する胸元が少年が

人間であると主張する


息を吐くために軽く開かれた唇に目がとまる

ゾクリと私の中で何かが蠢く

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