第3話 友達

「きなこ!遊びに来たよ!」

少年...天城 翔(あまぎ かける)は

人懐っこい笑顔を私に向けて言う

「翔くん今日も来たの?習い事は?」


「今日はない日、父さんと母さんも

夜中まで仕事だって」

翔の家は両親共に医療従事者で夜遅くまで

帰らない事も少なくないらしい

また、学校や習い事教室のあるこちらまで

電車で通う距離のため

習い事まで空き時間のある日は

私の家を訪ねるようになった


あの日も学校が終わり習い事までの空き時間に

1人で居たところに男に声をかけられたようだ


「ねぇ、きなこ今度

友達も誘って来ていいー?」

重たそうなランドセルを置いて

一息つくと翔が唐突に言う

「えぇ、翔くんはお母さんに

許可もらってるけど、他の子はちょっと...」

2人分の麦茶を小上がりの机に置き

ゲームの電源を入れる

私が渋ると翔は拗ねたように唇をつき出す

「ちぇ、けちー」

そうは言われても面識の無い未成年を勝手に

家にあげる訳には行かない

翔はコントローラーを使いカチャカチャと

画面内のキャラクターを操作する

対戦ゲームのため私も負けじと手を動かす

「はは、ごめんねー」


知り合った翔は優美な顔立ちとは裏腹に

活発でイタズラ好きな歳相応の男の子だった


そして後日

「きなこー来たよー」

当たり前のように訪ねてくる翔の傍らには

「初めまして...」

大人しそうな少年の姿があった

「えぇ...」


「大丈夫!許可はもらったよ!」

翔は自信気に言い家にあがる

少年も翔について歩く

「そうなの?本当に大丈夫?」

不安が拭えない私に翔は続ける

「りょうのお母さん僕のお母さんと友達だから

僕のお母さんの信用があるならって」

りょうと呼ばれた少年はリビングに入ると

いそいそとランドセルの中を探る

その手に便箋を持ってこちらに歩み寄る


便箋を受け取り中を見ると

丸みのある控えめな字で

翔の母の紹介があったこと

息子の良太郎自身が翔の話しを聞き

強く望んでいた事が書いてあり

文末には連絡先と共に

良太郎をよろしくお願いしますと

結ばれていた


(家は託児所では無いのだが...)

心に浮かんだ疑問は目の前の少年の

不安気な表情にかき消された


「良太郎くん?」

「はいっ!」


便箋を読み終え声をかけると

跳ね上がる様に返事をする

「えっと、まあ、許可があるなら良いか...」

折れてしまった...

私の許可がおりると良太郎は目を輝かせ

もう既にゲームを初めている翔に駆け寄る


3人分の麦茶を注ぎ持っていく

四畳半の小上がりが少し狭く感じた


「あーあ、なつきも来れたらいいのにね」

ポツリとつぶやかれた名前には聞き覚えがなく

疑問に思っていると良太郎が補足する

「夏月はぼくらの友達なんです

去年転校しちゃって、

会えてないんですけど…」

「夏月も絶対きなこのこと気に入るのに〜」

「気に入るって…」

翔にとっては私はおもちゃ同然のようだ


翔のもう1人の友人について思考するが

出来ることなど無いと思考を止める

私には彼らの友人が今の彼らと同じ

笑顔であるようにと願うことしか出来ない

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