現在を変える

 家に帰宅してからは、好きでもない酒を体に流し込む。つまみはインスタグラムでの中学の知り合いのストーリー。

 ビールの味は歳を重ねていくごとに分かっていくと言われていたが、今のところまだカルピスの方が100倍美味しい。

 酒と劣等感に溺れて今日も眠りにつく。


 朝のアラームが鳴ったのは午後1時。土日だと言うのに目覚ましをセットしたのは行きたくもないバイトに行くためだった。


 バイト先までは車で約20分、この時ばっかりは警察に職務質問されないかだとか、軽い事故に遭わないかと期待してしまう。

 それほどにバイトという存在は鬱極まりないのだ。


「おはようございます」

 裏口を開けるとともに気だるそうに挨拶をする。

「佐藤くん、おはよう」

 店長が軽く挨拶を返してきた。20代後半の女性にしては童顔で優しそうな声をしている。

 僕は小さく会釈をして、ロッカールームに入る。黒のシャツにエプロンを上から着て、長い髪の毛は後ろで縛り、少しでも清潔感を出す。


 カフェのバイトは、3年目になるが、未だにコーヒーの味の違いはわからない。全てが酸っぱくて苦くて、これもまたビールと同じで歳をとるごとに良さが分かっていくのだろうか。


「いらっしゃいませー」


「佐藤くん今日も一段と眠そうだねぇ」

 ほとんど常連しか来ないため、お客さんに顔と名前は覚えられている。


「最近あまり寝れてなくて」


「若いんだからいっぱい食べていっぱい寝なきゃだめだよ」


 遠くに住んでいるおばあちゃんのような言葉を投げかけてくる。きっとこの人から見たら僕なんて赤子同然なんだろう。

 僕よりもたくさんの経験をして、僕よりも辛いことをたくさん知っている。

 この先今の自分では想像もできないぐらいに辛いことが起こると思うと、ここで命を絶っておくことも一つの道だと考える。


 日本では自殺者が多いと聞くが、彼ら彼女らのことを僕は深く尊敬している。死ぬことは悪いことだとされているが、現状を変える一つの手だと僕は思う。別の道を考えるというのは綺麗事に過ぎないと思うし、死という道がないのはおかしいではないか。


「希望がないから死ぬのではなく、次の人生に希望を持って死ぬ」なんて、バイト中は暇だから中学2年生が書き溜めているポエムのようなことばかり考えてしまう。

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