嗅覚と記憶
「あの子、もう彼氏できてるらしいよ」
大学の友人から元カノの噂話を聞いた。どこからそんな情報を得たのか、なんてことは聞かなくても知っていた。
「まじか、別れてよかったわ」
少し笑みを見せながら指に挟んでいたタバコの火種を灰皿に押し付けた。
それが本当かどうかわからないけど、嘘だとしても、よりを戻したいとは思わないし未練があるわけでもない。ただ、今残っているものは元カノへの嫌悪感と目の前の男への少しの失望感だけだった。
「そういえば、今って香水使ってる?」
こんなこと聞いても無駄だってことはわかっていた。だが、友人という関係性を信じてみたかった。ただ、がっかりしたくなかった。
「香水なんてつけたことないよ」
「そっか、なんか少し甘い匂いがしただけ。僕その匂いちょっと苦手だな」
しっかりと笑顔でいられてるだろうか。いろんな感情に包まれた僕の心はただ、少し悲しい気持ちだけが残るばかりだ。
「その匂い、元カノと同じ匂いなんだよね」
人間が1番記憶に残るものは皮肉にも嗅覚らしい。記憶と嗅覚は繋がっていて、過去のことを思い出すそうだ。
「なんだそれ、電車の中でついたんじゃないかな、満員電車だったし」
そういった男の目は少し泳ぎながら右上を向いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます