拝啓、平凡な僕へ。
2019年、A市に住んで3度目の春が訪れた。僕はまだ、変われないままでいた。
人間誰しもすぐに立ち直って別の道に歩き出す事なんて出来なくて、それをできていたら周りに女々しい男なんて呼ばれていない。
すぐに立ち直れるような男になりたかった。でも、すぐ忘れるような情のない人間にもなりたくない。いつだってわがままでいつだって自分のことしか考えていない。そんな人間がこの世に少し居たって誰も困らないだろう。
そんなことを考えながら1人、大学の喫煙所でタバコに火をつける。
最近大学は新入生で賑わっている。ゴールデンウィークを開けるとそのうちの4割ぐらいは居なくなって、またいつも通りの殺風景な大学生活に戻る。
大学入学前はフル単を取れないやつは救えないダメな奴だと思っていたし、喫煙所に溜まり「俺◯◯とヤったんだよねぇ」とかほざく馬鹿はフィクションだと思っていた。
しかし、そんなもんだった。そんなどうしようもない馬鹿の集まりだった。受験生として縛られていた分、水を得た魚のように大学生活を謳歌し始めるのだろう。
いつものように講義を受け、いつものように取りもしないノートを出し、ただ別のことを考えている。今日の夜飯何にしよう。とか、バイトを休む理由、元カノのことやあの日の女のこと。よく人生の半分ぐらい損してるという言葉があるがまさしく本当の意味で人生の半分損している時間だろう。何も生み出さない、誰も幸せにならない考え事。どこまで行ってもわがままで自分勝手である。
講義が終わると、すぐに家に帰る。一緒に遊ぶ友達、彼女もいなければコミュニティもない。
イヤホンを付け自分だけの世界に入り、いつも通りの電車に乗る。プレイリストを流すとそこからは失恋を歌った曲が流れてきた。
悲しみを歌った曲は、また誰かの悲しみを乗せて重くなっていき、名曲になっていく。誰かの人生を動かせるような歌を歌っているアーティストはどんな生活をしているのだろうか。きっと僕より最低で最悪な経験をして、最高で何にも変えられないぐらい素敵な経験をしたのだろう。いつだって平凡で、いつだって脇役。誰かの心を動かせる、そんな人間に僕はなりたかった。
平凡で脇役な僕へ、いつからだろうか、夢がプロ野球選手から安定した収入の社会人になったのは。少年が大志を抱けても、青年は大志を抱けない。現実を見ると言うのは大事なことだけど素敵なことでも何でもないのだ。
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