男女の友情

 久しぶりに地元に帰ってみてから数日が経った。

 見慣れた田んぼ道に、見慣れた友達。正月休みが終わらなければいいのにと会話をしながら夜の道を2人で歩く。

将人まさとはいつ帰っちゃうの?」


 中学からの付き合いの友達、女性としての魅力を感じないかと言えば嘘になるが、この関係を崩したらダメな気がしてアプローチを断り続けていた。


「んー、1週間後ぐらいには帰っちゃうかな」


「ずいぶん早いねー、寂しくなるな」

 女はそういうと少し空を眺めすぐに手に持っていた携帯に目を移す。


「そうだ、これからうちで飲まない?」


「女の子の家に夜上がり込むなんて迷惑なことできないよ」

 笑いながら僕は言った。


「大丈夫だよ、今日家に誰もいないし。将人ともっと話したいからさ」


「じゃあお言葉に甘えることにするよ」


 誰も通ることのない夜中の田んぼ道を2人歩く。

 まるで世界に2人しかいなくなってしまったかのような静けさと、冬の寒さが寂しさを表している。

 気がつくと女の家につき、コンビニで買い込んだレモンサワーを開ける。


「乾杯!」


 静かな部屋に響く声と缶がぶつかる音。失恋の悩みや単位のこと、バイトや友達のいざこざ。全てアルコールで流し込む勢いで飲んでいく。


「こんな男振るなんてセンスないなぁ」

 ふと、女はつぶやいた。酒のせいか時間のせいかもしくはその両者だろう。


「誰か俺を愛して欲しいよ」


「私が愛してあげよっか」


 女はそういうと僕の隣に座って首を傾げてくる。


「酔ってるでしょ、寝ちゃったら?」


「その気があるから家に来たのかと思った、私は別にいいのに」


 男女の友情は成立するのか、なんて議論はきのこの山派かたけのこの里派かぐらいに擦られた議論だが、今日その問いの答えを知ってしまった。

 この関係を崩してはならない、その歯止めだけが男女の友情を成立させていたというのに。

 僕はこの日、何かが崩れてしまったような気がした。


「愛してるよ」

 吹けば飛ぶようなそんな言葉は行き場もなく、ただ目の前の女の承認欲求のための餌になるだけだった。

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