終わりのない恋(仮)

湊 笑歌(みなとしょうか)

プロローグ

 夏の夜、生温かい風が僕のことを包んで離さない。そんな中、重い足を動かし街を二人練り歩く。

もういっそのことこんな関係なんて捨ててしまえば楽なのに。そんな出来もしない願望も背中に張り付いた十字架の重りに加算されるばかりだった。

左手の薬指に輝く彼女の指輪は一度も外されることはなく、時折見えるその輝きに照らされて消えてしまいそうになる。

僕はいつだって代用品でしかなく、彼女にとって僕の存在は一時のさみしさを埋めるテディベアだった。

しかし、それでもよかった。それくらいの距離感でよかった。これ以上望んだら壊れてしまうから。

 

 だから僕は、この灰色の恋を終わらせられないままでいる。



 2018年。A市に住んで二度目の冬だ。町はクリスマスカラーに彩られており赤、白、緑、

黄色、人生に彩りなんてない僕にはまぶしくて、目を背けるようにイヤホンを付け目線をスマホに戻した。

人生が楽しくないわけではない。彼女はいるし友達にも恵まれている。不満があるとすれば、最近うまくいっていないということぐらいだ。彼女との関係も家庭環境も、すべてがすべて自分を押し殺して相手に合わせる。僕は、ロボットだ。


 駅に着き、いつも通り改札を通る。いつもと変わらない電車、変わらない時間。そんな中、スマホに一件のメッセージが送られてきた。

「別れたい」

揺れる電車とイヤホンから聞こえてくるクリープハイプの愛の標識。彼女から教わったこの曲も耳障りにすら思わないほどに世界から音がなくなってしまったようだった。


 浮気、喧嘩、すれ違い、疎遠、別れの理由なんて人それぞれで様々な種類があるがその大半に通ずるものは「飽き」だろう。そんなもので崩れてしまう関係なら、さみしさを埋めるだけの道具にしかならない。



 家につきタンスの奥のほうにしまっておいたピースライトの箱を取り出す。3か月、彼女のためにやめていたタバコにコンビニで買ったビッグライターで火をつける。

「久しぶりに吸うとやっぱりおいしいな、禁煙も今日でおわりだ」ベランダでひとり虚勢を張り、呟いたが寂しさは募るばかりだった。涙が出そうだと上を向いたが少しぼやけた煙がそこにはあった。本当はこれからの人生、タバコなんて吸いたくなかった。


 


やはりタバコはおいしくない。

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