幕間 その後の2人と
第一二話
予定時刻の10時よりも15分早く、待ち合わせ場所の駅前の鳥の石像前に到着した。
「さて、二人が来るまで、本でも読んでようかな」
鞄の中から(私は紙媒体の本が好きなため、鞄は少し大きめのものである)デイビット・エプスタインのRANGEを取り出す。一つの分野に特化したスペシャリストよりも多分野に精通したゼネラリストを目指すべきという本だ。今後の進路をどのようにすべきかを迷っていた私が、本屋で見つけたものだ。少し立ち読みした際に、ロジャー・フェデラー(有名なテニスプレイヤーね)とタイガー・ウッズ(こちらは有名なゴルフ選手ね)の話に興味を引かれてしまい、購入したのだ。
タイガーの幼少教育は、専門的能力の伸ばし方でよく取り上げられており、1万時間の法則で知られる「意識的な練習」に取り組んでいたとのことだ。このタイガーの教育方法は、現在ではポピュラーな考えではないだろうか。専門的な能力を身につけるべきであり、そして早く始めるべきだと。知識はより複雑化し専門化している。腫瘍専門医ですら、すべての癌を診るのでなく、器官ごとに専門が分かれている。
しかし、フェデラーは最初からテニスプレイヤーだったわけではなかった。母親がテニスコーチであるにも関わらず。
フェデラー少年はボールを使うスポーツが大好きで、サッカー、バスケットボール、スカッシュ、ハンドボール、卓球、もちろんテニスも。それどころかスキー、水泳、レスリング、バトミントンなどなど、様々なスポーツを楽しんでいた。様々なスポーツを楽しんでから専門を決めるのは、エリートアストリートを目指す選択でもそれほど馬鹿げた選択ではないのだ。
冒頭のタイガーとフェデラーの例からもわかる通り、ゆるく色々なことに挑戦することも大切ということを教えてくれる本である。新たな視点が得られるかと思い、読み進めていこうと思う。
外で読む紙の本は、白地に太陽光が反射して読みづらいが、なんとかRANGEを読み進めていると、女の子と男性の言い争う声が聞こえてきた。そちらに視線を向けてみると、凛音がいた。待ち人、既に居たり。
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