第十一話

『最終調整が終わったファイル、ちゃんと届いた?』


『届いたよ。今編集始めたところ』


『イラストや、画像素材は大丈夫?言われた分は送ったけど』


『大丈夫。あとは、こっちでなんとかできるよ』


 あれから、彼女たちとは会っておらず、チャットでのやり取りだけ行っている。先日収録した音源を詩音が調整したので、動画として編集しているところだ。

 そして今日、打ち合わせがある程度区切りがついたら、彼女たちに言うつもりだ。これまで通り、友達でいようって。別に女装してたって、レズビアンだってどうでもいいって。


『それで、なんだけど』


 そんな中で、詩音がそれだけ打って、私たちのチャットが止まった。続きを待つが、中々続きが打たれない。動きの止まったチャット欄がスマホのディスプレイに映り続けている。

 そして、


『この動画が完成したら、しばらく活動をお休みしようか』


 詩音がそんなチャットを送ってきた。


「なんで!?」


 私は、立ち上がって叫んだ。後ろ向きに移動させられた椅子は、勢いが良すぎたのだろう。キャスターが役割を全うできずに背面から倒れた。ヘッドレストがあるタイプのため重量が20kgある。大きな音が私の背後から聞こえた。

 なんでなんて言っておいて、原因はわかっている。公園でのやり取りで、彼女たちを不安にさせてしまっていたのだ。そして、それを早めに解決しなかったからだ。姉と話して決意した時に早々に言わなかったからだ。私が原因なのだ。


『そうだね。しばらくお休みでもいいかもね』


 凛音までもがそういった。嫌だった。2人と離れるのも。これまで先延ばしにしていた私も。


 『今から通話するから』


 私はそれだけ書き込んで、通話をタップした。


「私は嫌だから。活動を休むなんて」


 開口一番、私は言い放った。


「え…でも…」


 凛音の控えめな声が聞こえた。あんなに明るかった凛音が最近は控えめになってきている。そんなこと望んでいないのに。私がそうさせてしまったんだ。


「私は!あなたたちと!一緒に!いたいの!」


 凛音には明るくいてほしいし、詩音にも距離を取られたくないという思いが口をついて出ていく。


「凛音が男だったなんてどうでもいい!先輩が女相手に発情したっていい!2人からこいつとヤリてぇなぁって思われていたっていい!でもあなたたちと離れるのは嫌だ!だから活動辞めるとか言わないで!」


 ここまで一息で言い切った。そこから誰も言葉を発さなかった。どれくらいだろうか、一瞬だったような気もするし、コーヒーをハンドドリップで淹れ終わるくらいの時間だったかもしれない。それとも1本の動画をアップロードできるくらいの時間だったかもしれない。


「いいの?」


 凛音の声だ。最近よく聞く控えめな声。


「いいに決まってる」


「えっちな目で見ちゃう。カミングアウトしちゃったから、遠慮しないよ。」


「どんとこいだ」


 ロリな詩音から遠慮ない発言。もう私はうじうじしない。


「あんたらがどんな性癖持ってようが、気にしないよ!私を舐めないで!」


 やっと宣言できた私は、椅子に座ろうとして、


「あ」


 椅子が倒れていたことを忘れていた私はそのまま後ろ向きに倒れたのであった。

  

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