第十話

 なるほど。確かに私は、何に対して戸惑っていたのだろうか。一度、時間を置き、少しスッキリとした頭で考えてみる。

 女装した凛音が嫌なのか?Noだ。凛音は大切な友達だ。格好がどうとか関係ない。

 女の子が女の子を好きになってはダメか?Noだ。同性愛だっていいじゃない。

 秘密にされていたことが嫌か?それはYES。でも中々にデリケートな話題だ。凛音のあの様子からすると、本当に信頼がおける人物でないと言えないことだったのだろう。秘密にされていたことについては嫌ではあるが、凛音の決断は勇気ある行動で、責めるべきではない。詩音のことだって、おいそれと話せることではない。そのことで嫌な思いだってしてきたかもしれない。

 では、彼女たちに性的な目で見られることに関しては?んー?これに戸惑ったのかな?でも、クラスの男子たちからだってそんな目で見られることはあるし、恋愛対象を性の対象として見ることは自然なことに思う。つまり…


「何も嫌なことなんてなかった…?」


「そう。解決したわね。彼女たちと変わらぬ友情を育めばいいのではないかしら?突然言われたことが、常識や普通とは違っていたから混乱したのかもね。」


「そうかも。普段、常識とか普通とか、クソ喰らえ!私は私の道を行くんだ!みたいなこと思っていたのに情けないよ」


「そんなものでしょう。世界をどう認知するか。人によってその認知は異なるし、知識として知っているだけでは、認知は変わらないものよ。あなたは、性的マイノリティを真の意味で認知したの。今まであなたの世界に性的マイノリティは存在しなかった。だから自分の世界が揺らいでしまった。だから混乱してしまった。新たな価値観に照らされた今の世界は、今までとは違う側面から物事を見ることができるようになっているでしょう。その世界観で、彼女たちを認知し直してみて。その上で、関係性を再構築するの。より明るい世界が待っているかもしれないわ」


「太陽に照らされた囚人、プラトンの洞窟の比喩?というか、もしかして、また混乱させようとしてる…?」


「ふふふ。そんなつもりはなかったのだけれどね。でも、彼女たちの秘密を知ってなお、その秘密が嫌なことではなかったと気づいた。これは、彼女たちを再認知するために大切な要素なのではないかしら?」

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