第九話
「なるほど。今まで女の子だと思っていた娘が実は、男の娘だった。さらに、もう1人の女友達に性対象として見られていて、混乱しているのね」
「そうです」
私もコーヒーを啜る。花のような甘い香りに、キャラメルやヨーグルトのようなコクと酸味。さすがのスペシャリティグレードの豆である。確かに少し酸味が出ている気がするが、よく分からなかった。お姉ちゃんよく分かったな。
「ふふっ。コーヒーの味、よく分かったなって顔をしてる」
「え?そんな顔してる?」
「してる。あなたって案外考えが顔に出るわよ。まだまだ子供ね。メンタルコントロールを鍛えなさい。瞑想しなさい。瞑想。」
「瞑想かぁ。お姉ちゃん。朝にやってるよね」
「朝じゃなくても、少し嫌なことがあったりしてもしてるわよ。瞑想って呼吸に注目するの。呼吸って、意識と無意識の境目にあるの。意識しなくても呼吸はする。そして、無意識で行っていることを意識的に変えられるのは、呼吸だけ。心拍数を自在にコントロールはできないでしょう?でも呼吸数は意識的に変えられるの」
穏やかな口調で、話す姉。このたおやかな雰囲気。メンタルコントロールが上手なことに対する説得力が高すぎる。
「そっかぁ。思考がまとまってないから瞑想でもしようかなぁ」
「ふふふ。いいかもね。思考がまとまらない時は、ホワイトスペース…何もしない余白の時間を作ることが大切なの。瞑想しないまでも、コーヒーでも飲みながらぼうっとしてみるのもいいかもしれないわね」
そう言いながら、姉は、カップを口につける。私もつられて一口飲む。
「ゆっくり飲みながら、コーヒーの温度変化による味と香りの変化でも楽しみましょう」
そうしてしばらく、私たちは無言で過ごしていた。私は普段行わない、何もしないという時間を過ごしていた。既に、カップの底にはコーヒーの黒ではなく、カップの紺色が顔を見せている。ぼうっとしている私に、姉は語りかけてきた。
「んー…雪菜はさ。何が嫌なの?」
「嫌?」
「そう。嫌なこと。女装した男の子が嫌?女の子が女の子を好きになることが嫌?秘密にされていたことが嫌?何が嫌なの?」
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