第七話

「雪菜。ごめん。私、あなたをめちゃめちゃ性的な目で見てた。そして凛音のことも可愛いなぁって思ってた。ハーレムサークルでとっても楽しいって思ってた。まさか凛音が男とは思わなくて、残念に思うけど、正直なところ、凛音は見た目がとてもタイプだから、これまで通りに付き合っていくのに何も問題はないよ。」


 そう言った詩音は、情報が追突事故並みに連鎖反応され混乱している私に視線を向けた。


「ここで問題なのは、雪菜だよ。私と凛音の性的な視線に晒されて、あなたはこれまで通り私たちと接することはできる?」


 まさか、凛音の相談に乗るつもりが、私の覚悟の話になるなんて思ってもみなかった。


「え、だ、大丈夫だよ…?」


 いつもは、どんなことにもハッキリと答える私の答えは、ひどく頼りないものだった。


 いつもよりもゆっくりとハンドルを回しながらコーヒー豆を挽いていく。コマンダンテC40MK4。私の愛用するコーヒーグラインダー(コーヒーミルともいう)だ。本体もウォールナット素材でできており、手触りも良い、お気に入りの逸品だ。このコーヒーグラインダーに使われているニトロブレードはステンレス鋼に窒素を添加し、硬度と耐摩耗性を高めている。よく手挽きのコーヒーグラインダーに使われているセラミック刃は、豆をすり潰すように挽くため、挽いた豆の粒度が均一でないことが多いが、コマンダンテの硬質で鋭い刃で豆を挽くと、豆の粒度が揃っていて、味が安定する。最近さらに上位グレードのC60が販売されたが、価格も重量(手挽きなのになんと1kg越え!)も手挽きのコーヒーグラインダーとは思えない代物だ。流石に手挽きコーヒーグラインダーに十数万は出せずに購入を断念した。ただ、いつかは使用してみたいと思っているが。

 コーヒー豆を挽き終わり、電気ケトルで93度に沸かしたお湯で、ドリッパーにセットしたコーヒーフィルターを一度洗い、ついでにサーバーも加温しておく。(私はシンプルな円錐形のドリッパーを愛用している。流速のコントロールによる風味の調整をしやすいからである。)ドリップスケール(コーヒー用キッチンスケール)にお湯を捨てたサーバーとドリッパーを置き、スケールを0グラムに合わせる。挽いたコーヒー豆を計量しながら投入し、ドリッパーを軽く揺すり、平に均す。また0グラムに合わせ、タイマーを起動。カウントが始まった。

 まずは1投目。お湯を注ぎ、蒸らす。その後も何度かに分けてお湯を投入していく。お湯が落ち切ってから次のお湯を投入するのがコツだ。私は、最初はサークルプア、後半はセンタープアにして雑味を抑えるやり方を実施している(サークルプアとは回しながらお湯を注ぐこと。センタープアとは、回さずに中心にお湯を注ぐこと。)。

 お湯300gを投入し、2人分のコーヒーを抽出し終えたら、サーバーを回し、濃度を均す。ケトルに残ったお湯でカップを温めたのちに、コーヒーを2つのカップに注ぐ。2つのカップをトレーに乗せ、ある部屋の前まで運ぶ。


「あの、お姉ちゃん。ちょっと話したいことがあるのだけれど」


 姉の部屋をノックし、相談を持ちかけた。

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