第五話

 河川にテニスコートやゲートボール場などが良くあるが、これは洪水時に、そこをバッファとして機能させ、水を貯留させることで下流への洪水リスクを低減させる目的がある。私たちは通常時のため、普通に公園として機能している河川敷の公園に、3人で連れ立ってやって来た。


「で、改まって一体何の話なのかしら?」


 びくりと震える凛音。ごめんね。圧が強くて。別に脅かしたいわけじゃないの。意図していないの。私の容姿のせいなの。


「そうだよ。随分長く一緒にやって来たんだし、私たちに今更秘密なんていらないでしょ。」


 我らがサークル主もそう言っている。私が中2の時から活動しているからもう2年になる。顔出しなしで、ボカロも使わず活動している割には登録者数も少しずつだが伸びている。最初は再生数2とかだったなぁとぼんやり考えていると、凛音が口を開いた。


「僕の秘密。2人には言わなきゃって思ってたんだ。中々決心がつかなかったんだけど、言わなきゃって、思って…」


 私たちに向き合って、言った。


「僕、男の子なんだ。」



「は?」


 は?である。こんな可愛い娘が男の子?こんな可愛い娘が女の子のわけないとかいうネットミームか?わぁい。私の頭は大混乱である。隣を見ると、詩音も同様であった。眉間に皺を寄せたり目の焦点が合わなくなったりと、思考がまとまっていない様子が見て取れる。詩音の混乱具合をみて、逆に冷静になって来た。


「フタナリって実在するんだ。」


 ごめん。全然冷静じゃ無かった。セクハラじゃん。まじごめん。


「あはは…。やっぱりそうだよね。ごめんね。混乱させちゃって…」


 傷ついたように目を伏せる凛音。これはいけない。ここは天下分け目の関ヶ原。


「確かに混乱した!してる!だって凛音は可愛いから、驚いてしまったの。もっと詳しく聞かせてもらっていいかしら?」


 兎にも角にも、話を聞かなければならない。どこで閲覧したか忘れたが、親密な関係のほとんどが期待値のズレによって崩壊するという。ここでいう期待値とは、統計学などに使われる確率変数の長期的平均値のことではない。相手にどれだけのことを期待するかということである。たとえば、友達から恋人へ関係性が変わったのだから友達の時とは違う接し方をしてほしい、妊娠したのだから今までしてなかったことをしてほしい、新しい職場や新しい学校に移ったので慣れていない環境にいるから気を遣ってほしいなど、環境や身体的変化によって相手に期待するものも変わってくる。相手への期待と相手からのアクションのズレが親密な関係性を崩壊させるのだという。この期待値のズレは話し合いによってしか擦り合わせができない。長々と喋って何が言いたいかというと、兎にも角にも、話し合いは大事なのである。

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