第2話 処女ばれからの危機脱出
『あんたたち、そこで何を……えっ、何だって???』
迫りくる唇を押しのけたのはいいけれど、廃校舎の悪魔城みたいな部屋で、純白のドレスに身を包んだ女からそのまま押し倒されてくんずほぐれつ、裸にひん剥かれそうになっていた私は、そのありえない空間への第三者の登場によって難を逃れた。この異様なる空間の向こう、私の入って来た廊下の辺りを見てみると、小さな背丈の、白衣の? 金髪の――少女が? かな? が、目を白黒させながら驚きを隠せないと言ったように、不同意不純同姓交友に及ぼうとしている私たちの姿を見ていた。いや、むしろ私のことはおそらく眼中になくて、私を裸にひん剥こうとしている白髪の彼女のことを見ていた。
『
『アリア』と言うのが、頬を紅潮させながら、私にものすごい力でセクシャルに襲い掛かってきている彼女の名前だろうか。『アリア』と呼ばれた彼女は、一瞬声を上げた金髪の少女をちらりと見やったけれど、意にも介さないというように。
『知らない人デス。お姉さま。続けマショウ』
そう言って首筋に強く吸い付くキスをする。キスマークを残す気だ! ただ、第三者の乱入は、この強力な腕力を前に半ば絶望しかけていた私の心にひとひらの小さな勇気を灯すのに十分なものであった。
『こ、こらっ。やりすぎ! やりすぎだって! ダメだよステイステイ! えっちなことはダメえええええ!!!』
『そうだぞ! アリア! 目覚めていきなり人を襲うな性的な意味で!』
『そうそう! 私雰囲気とか重視したいから! 最初はちゃんとしたいから!』
私がそこまで叫ぶと、首筋に痛いくらい吸い付いていた唇の感触が離れて、押さえつける力が和らいだ気がした。恐る恐る天井を見上げてみると、そこには緋色の瞳を潤ませて、まっすぐに私を見つめる彼女の姿があった。
頬を赤らめながら、彼女は言った。
『お姉さま、もしかして、処女……?』
そのデリカシーのない言葉に、さすがにカチンときた。いきなり目覚めて、唇を奪っておいて、人のことを何だと思っているんだ!
『悪かったわね! はいそーですよ処女ですよ! だから最初はこんなんじゃなくて雰囲気とか大事にしたいの! 初めては大切なの! だから離れて離れて! もう!』
私が子供みたいに暴れると、彼女は納得したかのように微笑み、そして押さえつけていた手をほどいた。
『ふふ。お姉さま。カワイイ』
『うるさいわ! っていうか『お姉さま』とかカワイイってバカにしてんのほっとけ!!』
金髪の少女の手伝いもあって、『アリア』と呼ばれた彼女をやっと引きはがして、一息つくことができた。ああ、疲れた。どっと疲れた。こんな目に合うなんて、今日はなんて最低な日だ……。
『それにしても、人払いの結界を突破して、アリアを目覚めさせるなんて、あんた、何者……?』
金髪の少女は暗がりで顔こそよく見えなかったが、きっと驚いた表情をしていたんだろう。声色からなんとなく分かった。アリアと呼ばれた彼女はと言うと、私が処女だということが分かってなんだかご機嫌なんだろうが、『結界』とか『目覚める』という言葉については全く無関心なようであった。
『ここで話すのもあれだし……ついてきて。場所を変えて、詳しい話を説明したい』
******************
そうして私は、『アリア』と呼ばれた白髪長身の彼女は、金髪の白衣の少女が運転する車で、北新宿の辺りの公園の近くにある、古びた洋館へ連れてこられた。少女、と外見を形容はしたけれど、普通自動車を運転できるという事は年齢は十八歳はこえているということか。よくよく見てみると、メイクはばっちりだし、耳にピアスも七~八個、唇にも開いていて、服装もおへそが出ているし、ファッション的にはギャルである。私からは最も遠い存在かもしれない。しかもなぜか、その上に白衣を羽織っている。
まあ、自動車の後部座席で、ひたすら私にイチャイチャしてきた『アリア』と呼ばれた彼女についても私とは最も縁遠い存在ではあるかもしれないけども。
たどり着いた先の洋館は、外見は古びてはいるものの、中はとてもきれいに整理整頓されていて、多分金髪ギャル少女の性格が、わりときっちりしたものであるという事が見て取れた。掃除好きなのかもしれない。
私達は、一面に本棚が並ぶ部屋に通された。そこには、応接セットのソファがあった。本棚には、あまり私ではわからない工学やプログラミング系の本と、それから対照的に怪談や民俗学の本などが所狭しとぎっしり並んでいる。
「ここ、書斎兼客間だから。とりあえず座って。ちなみに禁煙だからね。コーヒー淹れてくる」
そういって、私達は二人だけ残された。すると、『アリア』と呼ばれた彼女の目がらんらんと輝き、ずい、とまた距離を詰めてきて――。
「こら、あたしがいない間に、人の家でいかがわしい真似するんじゃねーぞ」
と、思い出したかのように開いた扉から顔をのぞかせた金髪ギャルに、『アリア』はふくれっ面で体を離した。ギャルが釘を刺してくれたおかげで、どうやら私の操はなんとか保たれそうだった。しばらくして、コーヒーカップとポットを持って戻って来た金髪ギャルが席につき、私達の間でやっと、何かを話し合う雰囲気が流れた。
「さて、じゃあ、自己紹介といこうか。あたしは
金髪ギャルの仕切りで始まった自己紹介の会は、唐突に私の番が回って来た。こういう突然のフリに私は弱い。とはいえ、突然こんな洋館に連れてこられてしまったけれど、たぶんこの状況自体に害意はなさそうだ。
「私は、
そしてちらり、と隣に距離近く座る、白髪の『アリア』さんの方へ目をやった。次はあなたです、と促すように。
もう一度、彼女の姿をまじまじと確認してみる。白銀の髪に、透き通った肌。白のドレス。身長は一八〇センチくらいはあるだろうか。ナイスバディに、目鼻立ちは作り物みたいに整っていて、まるで絵画の中から飛び出して来たかのようだ。ふさふさのまつ毛の下の瞳は深紅色をしていてそこだけに炎が宿っているかのよう。
つい、私が彼女に見とれてしまっていると、彼女は明るく、とんでもないことを口走った気がした。
「ワタシのコードネームは、アカシア
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