王宮からのエピローグ
「いや、いいですって。大丈夫ですって。ひとりで帰れますから」
「そういうわけにはいかない。送らせてくれ。これは私のお詫びの気持ちなんだ」
「いえいえ、お詫びならもう十分にいただきましたから」
「それに、道中、女の子ひとりでは危ない。また狼藉者が君をさらいに来るかもしれないぞ」
「ジュリアン様はもう十分に反省なさっているようでしたし、大丈夫でしょ」
「ジュリアン以外にも、この世界にいる人間の半分は男だ。つまり、人類の半分が君を狙っているということだ」
「いや、そのうちの1割もいないと思いますけどね」
「そんなことはない。頼む、送らせてくれ。君が無事に家に帰り着くのを見届けなければ、私は夜も眠れない」
「ゆっくりお昼寝なさればよろしいかと」
「大丈夫だから。道中、何にもしないから。絶対に何にもしないから」
「それ、改めて何度も言われると逆に怪しいですからね!?」
……というわけで、あたしは王子様の馬車に乗せられて、村まで帰ってきた。家が見えてきたあたりで、ちょうどその辺りを通りかかったらしいリューゴとばったりすれ違う。
馬車に乗っているのがあたしだと気付いた瞬間、リューゴは絶叫した。
「な、なんだジーナ! おまえ、なんちゅう馬車に乗ってるんだ!」
乾いた笑いをするしかない。王子様の専属馬車は、白銀で作られた車体に金の縁取り。あちこちにユニコーンを模した国章のレリーフが施された豪華絢爛な馬車であった。村の荷馬車とは比べ物にならない圧倒的存在感。あたしが大人しくこの馬車に座っているのも、あまりにも豪華絢爛すぎるこの馬車の内装にめまいがして立ち上がれなかったからというのも大きい。
「やあ、少年。ジーナの知り合いかな? こんにちは」
ほがらかに挨拶をするエリオット。わざわざ馬車から降りて、リューゴの隣に並ぶ。
……うわ。身長差がすごい。というか頭身差がエグい。なんかもう、世界観が違う。画風も画材も全く異なる画家の絵を並べたみたいだ。
たいして年齢も変わらない男二人で月とすっぽん、天空と大地、雲と泥……うわあ、キツぅ……ていうか、多分あたしと王子が並んでてもこんな風に見えてるんだろうな。キッつぅ……!
リューゴもそれを感じ取ったのだろう。みるみる顔色を失っていき、真っ白な顔でガタガタ震え出した。そのうち目に涙をため始め——。
「うわーん! 覚えてろ!」
と謎の台詞を吐きながら、号泣しながら走り去って行った。いや泣かんでも。あれはあれでわけがわからんな。
とりあえず手を振って見送るあたし。その間にエリオットはスタスタと歩いて、あたしの家に向かって行った。
「やあ、これは可愛いらしい馬小屋だな。これなら我がシルフィール号もくつろげるだろう。あれは厩務員さんかな? こんにちはー!」
「あたしの家です。父です」
「おおそうか、お父様ー、こんにちは!」
「こ、こんにち………は? はぁ??」
王子様に握手を求められ、その手と後ろの馬車、そしてあたしのほうをキョロキョロ見返しながらひたすら混乱している父。
………あぁ……うん。そうなるよね……。
ジュリアン……わたし、あんたにまぁまぁ酷いことされたけど、許せそうよ。ていうか、友達になれると思う。少なくともあんたのお兄さんより、気が合うもの。
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