ひまわりの種

@10312008

第1話

 テレビを置いている棚の下を掃除していたら、カピカピに乾燥したひまわりの種が出てきたことがある。種とはいっても中身はなくなっていて半分に割れた殻の部分だけが落ちていた。黒色の部分は色が剥げてしまっていて、少しばかり埃にまみれている。

「まる子め、こんなところでおやつを食べていたとは」

 私は4年ほど前にまる子という名前のハムスターを飼っていた。食べることが大好きなやつでまるまる太っていたからまる子と名付けてやった。とくに好きだった食べ物はひまわりの種で、私があげすぎたからあんなに大きくなってしまったのかもしれない。

「よく脱走するから探すのが大変だったなあ」

その太い図体とは裏腹にまる子は運動神経がよく、ゲージのロックを巧みにはずしてしょっちゅう脱走していた。脱走するとハムスターの習性なのか大抵は暗くて狭い場所にかくれる。カーテンの裏や、棚と壁の間、冷蔵庫の下でほこりをかぶっているのを見つけたときはビックリしたものだ。

 このひまわりの種もいつか脱走したときーそれもまだまる子が元気だったころーに棚の下でむしゃむしゃ食べたのだろう。

 まる子は晩年になると一日のほとんどを寝て過ごすようになり、カラカラと回し車を鳴らす音も聞こえなくなってしまった。大好きだった食事も次第にとれなくなって細くなっていき、ある朝冷たくなっているところを見つけてしまった。

 この種の殻を見ていると昔のことが次から次へと思い出される。私は庭にいってまる子を埋めた場所に殻を置いた。あいつが大好きだったひまわりの種。どうか天国でもたらふく食べられいますように。

 

 

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