第17話

「あいつは…あんな事言ってたけどお前と付き合いたいって思ってる奴はちゃんといるから気にするなよ」


瑞稀は頭をかきながらそう言った。


瑞稀が照れたらよくやる癖。


彼が私を慰めてくれていることが嬉しかった。


「慰めてくれてるの?ありがとう」

「別にそういう訳じゃ、」


「心配しなくても、私だってあんなやつと付き合いたくないもん」


あんなやつと付き合うなら裸で出勤する方がマシよ。


「梨華」

瑞稀が少し躊躇いながら私の名前を呼んだ。


「ん?」


瑞稀の表情から何か言いたいことがあるのを感じ取るけど、それが何なのか分からない。


「…いや、なんでもない」

瑞稀は視線をそらし、少し照れくさそうに笑う。


「なによそれ」

私は軽くため息をついた。


瑞稀って、たまに何か言いかけてやめる時あるんだよねぇ。


「今日はもう早く休めよ」

「うん、ありがと。瑞稀もね」


その後、私は家に帰り、部屋のドアを閉めた。


心の中では、今日の出来事がぐるぐると回っていた。


田中のしつこさ、瑞稀の助け、そして自分の気持ち。


すべてが混ざり合って、頭の中が混乱していた。


「っとに、今日は散々な一日だったなぁ」


ベッドに横たわり、天井を見つめながら深呼吸をした。


心を落ち着けるために、ゆっくりと息を吸って、吐いた。


「あぁ、駄目だ。吸って吐くぐらいじゃ落ち着かない」


外走ってこよかな…って夜だし危ないか。


にしても田中、ほんっときもかったなぁ。


警察通報した方が良かったかなぁ。


ちょっと待ってよ。月曜から普通に顔合わせないといけないってことだよね。


まぁ、私に落ち度は無いから堂々としてればいいんだけど。


あんな奴を野放しにしてていいのか?


瑞稀がいなかったら、どうなっていたか分からない。


もしかしたら殺人未遂の容疑で捕まってたりしたんじゃ…


「でも、どうしてこんなに瑞稀のことを考えてるんだろう」


さっきからずっと、、瑞稀の顔が頭から離れない。


瑞稀はただの幼なじみのはずなのに、彼のことを考えると胸がドキドキする。


「もしかして、私…」


その考えを打ち消すように、私は頭を振った。


そんなこと、ありえない。


瑞稀はただの幼なじみで、私は彼に特別な感情を抱いているわけじゃない。


「でも、もしそうだとしたら…」


その考えが頭から離れなかった。


瑞稀のことを…。


ないないない!


絶対にない!それだけはない!


危ない危ない。勘違いするところだった。


私が瑞稀を…?


こんな気持ち幻想だ。


ただ、助けてくれたからかっこよく見えただけで、


そうだ。綱渡り効果?


吊り橋効果か。


そうだ。絶対それだ。


そうとしか考えられない。


「あぁ、もう。どうしてこんなに複雑なんだろう」

私はため息をつきながら、目を閉じた。


とりあえず寝よう。


寝てこの気持ちもリセットしよう。


明日になったら全部元通り。



そう願いながら、私は眠りについた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る