第15話

「はい、そこまで。まじでやめろ」


突然の瑞稀の声に、私は驚きと安堵が入り混じった感情を抱いた。


「瑞稀…なんで」


もう帰ったと思ったのに、瑞稀が戻ってきてくれたことに少しだけ心が軽くなった。


「俺がお前見捨てるような薄情な奴だと思うか?バカ」


瑞稀の言葉に、胸が温かくなった。


「な、なんだよ!今いい所なのに邪魔するな!」


いや、全然いいところなんかじゃないし、むしろ邪魔してくれてありがとうございますだわ。


「何がいい所だよ。嫌がってんじゃねーか、少しは梨華の気持ち考えるろ」


「って、照れてるだけで、本当は喜んでるんだ!」


な、にを言っているんだ、この人は…。

私は呆れた表情で田中さんを見つめた。


「はっ」

「な、何がおかしい」


彼の声が震えているのが分かった。

彼も不安なのだろう。


「梨華の事なんも知らないんだと思って」


「は、は…?お前は梨華ちゃんの何を知ってるんだ」


彼の声が苛立ちを帯びていた。


「少なくとも、お前よりは知ってる」


瑞稀の言葉に、私は少しだけ安心した。


「何を…」


「こいつが照れ屋?んな訳ないだろ。ちょっと優しくしてもらって嬉しくなって好きになるのは勝手にすればいい。でもな、相手に迷惑かけるな。そんなの恋でもなんでもねぇよ」


瑞稀の言葉に、私は心の中で頷いた。


彼が私の気持ちを代弁してくれていることが嬉しかった。


「俺は、ただ梨華ちゃんのことが好きで…」


この人のやり方は間違えてる。


「こんな事言わない方が先輩の為だと思ってたけど、先輩のためにも私の為にも、はっきり言わせていただきます。私は先輩の事なんとも思ってないです」


私は強い口調で言い放った。


「え…」


彼の顔が驚きに変わった。

彼もこの言葉を予想していなかったのだろう。


「あの時助けたのは、田中さんだったからでも好意を持っていたからという理由でもありません。あそこにいたのが誰であっても私はきっと同じことをしたと思います」


彼に誤解を解いてもらいたかった。


「じゃあ最初っからそう言ってくれたら、こんな惨めな気持ちにならずにすんだんだ!」


いや、逆切れですか?


そもそもあんたが私の事好きだなんて、今日知ったんだからしょうがないでしょ。それに…


「ストーカーしてる時点で惨めじゃないですか」


私は冷静に言い返した。

あなたの行動がどれだけ迷惑か伝えたかった。


「ス、ストーカーだなんて」


自分の行動が間違っていることに気づいたんだろうか。


「仕事から家に帰るまでずっとつけてきてたの知ってますよ」


普通だったらもうこの辺で自分がしてる愚かさに気づくはずなのに


「梨華ちゃんに悪い虫が引っ付かないか心配して守ってあげてただけなのに、そんな言い方はないんじゃないか!?」


まさかの逆切れですか。


何こいつ…。



もう先輩だからって敬語使えないわ。

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