第13話

隣同士だから鉢合わせする事もあった。


「梨華、」


瑞稀の声に振り返ると、彼が立っていた。


私は心の中でため息をつきながら、冷たく答えた。


「...今急いでるから」

「いつなら空いてんの」


瑞稀の問いに、私は少し苛立ちながら答えた。


「いつも空いてない」


なんて言って避けた。


瑞稀の顔を見るたびに、あの時のことを思い出して、胸が痛むから。


それでも、心配してなかった訳じゃない。瑞稀にとってはただの23年間だったのかもしれないけど、私は違うから。


佳代と何があるのか、何をされたのか、少しでも力になれることがあるなら助けてあげたかった。


だけど、瑞稀の心配をしてる場合じゃなかった。


最近つけられてるような気がして、おかしいと思ってたんだよね、


「り、梨華さん...」


ある日の仕事帰り、マンションの前で待ち伏せされていた。


「田中さん?どうしてここに、」


田中さんの姿を見て、私は驚きと共に不安を感じた。


多分、今までも彼につけられていたのだろう。


「こ、この前のお礼に....」


そう言って果物が沢山入ったかごを渡された。


「お礼…?」


私、こんなもの貰うぐらいなにかしたっけ。


「上司から俺を庇ってくれたから、」


「えっ。それだけで、こんなのもらえません」


大したことしてないのに。気にしすぎ、


「お礼だよ、」


田中さんの真剣な表情に、私はさらに困惑した。


「でも、」


さすがにこんな高価なもの貰えるわけない。


「梨華さんは...俺が好きだからあの時庇ってくれたんだよね、あれから俺も好きになっちゃったみたいなんだ、」


彼の言葉に、私は一瞬固まった。


えーっと、どういう解釈をしたらそういう考えに至るんですか?


「そんなつもりじゃなかったんですけど、勘違いさせてしまったなら謝ります。ごめんなさい。謝ることしかできません」


本当は謝る理由なんてないけど、こういう人を怒らせたらめんどくさい事になる。


「なんで、僕を弄んでたんだね....」


いや、なんでそうなるのよ。


「違います、理不尽なこと言われてたから助けようと思って、ただそれだけです」


なんて言っても聞く耳を持たず、彼の表情がどんどん険しくなっていくのを見て、鳥肌が立った。


「僕と付き合わなかったら後悔するのは梨華ちゃんだよ!?」


うるさいよ、急に叫ばないでよ。


今ので耳がキーンってなったんだけど、とんだ勘違いやろうだ…


あ、思い出した。


数週間前、会社の先輩から教えられたことが頭をよぎった。


こいつ…



元カノの家待ち伏せ男だった。

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