第12話

そんなわけない。


そんなの、あるはずない。


「認めるも何も好きだなんて思ってないけど」


私は冷静を装いながら答えたけど、心の中では動揺していた。


佳代の言葉が頭の中でぐるぐると回っていた。


「一度もですか?」

「そうだけど」


私は少し苛立ちながら答えた。

私を追い詰めるようとしているみたいに感じた。


「ふふ、そーなんですね」

佳代の笑い声に、私はさらに苛立ちを感じた。


何が面白いの。


「なんなのさっきから…。喧嘩売ってるなら買うけど?」


「こわぁい」


こいつ…

一発殴ってもいいかな。


「あんた…」


「もう、そんな怖い顔しないでください。別に私は梨華さんに喧嘩売りに来たわけじゃないですから」


じゃあさっさと瑞稀の所に、


そう言おうとした時だった。


「梨華、知り合いか?」


いつの間にか後ろに瑞稀が立っていた。


「あ、瑞稀、」

「瑞稀先輩〜」


出た、ぶりっ子。


何が瑞稀先輩〜よ。


今年で25なのに自分の年考えてる?


「あ?誰だよお前」

ぷぷ。忘れられてやんのぉ。


「忘れちゃったの?佳代だよぉ、」

「…なんでここに、」


瑞稀の顔が険しくなったのを見て、私は少しだけ驚いた。


「先輩に会いたいと思ったから」


さっきまで寄り戻すなんて言ってたのに、


会いたいなんかじゃなくて、はっきりより戻しに来たって言えばいいじゃない。


「俺はお前の顔なんて二度と見たくない。帰れ。行くぞ梨華」


瑞稀がこんなに怒るなんて今までなかったのに。


「え、でも…」

「いいから、」


瑞稀が私の腕を引っ張り、私は彼に従った。


すごーく、酷い別れ方でもしたのかな。


「梨華」

「ん?」


「佳代とは関わるな」

「関わるもなにもあの子が来たんだよ」


「もしも、次また会いに来たら無視しろ」

「え、なんで」


私だってあの子嫌いだけど、そこまでする必要は…


「いいから。な?」


瑞稀の真剣な表情に、私は少しだけ不安を感じた。


「瑞稀どうしたのよ、」

「別にどうもしてないけど」


何年幼馴染みしてると思ってるのよ。


「どうしてあの子のことを避けないといけないの」

「それは…」


「やっぱり何かあったんでしょ?」

「…何でもねぇよ」


この前からずっと何でもない何でもないって。


何も無いわけない。


もしかして、この前の電話も佳代から…?

まさか、ね。


「ねえ、教えてよ。私に隠し事してるでしょ」


私は瑞稀の目を見つめながら言った。


何かを隠しているのは明らかだった。


「本当に何にもねぇよ」


まだ隠そうとするんだ。


「嘘つかないで!あの子と何があったの。私達親友でしょ?隠し事はなしって約束したじゃない」


何が瑞稀のことをそんなに苦しめているのか知りたかった。


「親友親友って、ただの幼なじみのくせにうるさいんだよ!」


"ただの"幼なじみ…?


「っ、」


私達の23年はなんだったんだろう。


瑞稀にとってはただの幼なじみと過したただの23年だったんだね。


「悪い、言いすぎた…」

瑞稀の言葉に、私は少しだけ涙が浮かんだけど、すぐに拭った。


「ごめんね、ただの幼なじみが口出しして。あ…私そろそろ帰らないと、」

私は彼に背を向けて歩き出した。


「待てよ、」

瑞稀が私の腕を掴んだ。


「離して、」

私は振り払った。


「梨華、」


「そんな酷いこと言われるなら心配なんてしなきゃ良かったよ…」


瑞稀が私を呼ぶ声が聞こえたけど、私は振り返らなかった。


私は涙をこらえながら歩き続けた。



瑞稀の言葉が胸に突き刺さって、痛みが消えなかった。

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