第6話

瑞稀が部屋に戻ろうとするのを見て、私は少しだけ罪悪感を感じた。


やりすぎちゃったかな。


一緒に食べるの忘れてた私も悪いか…


今からでも引き止めて…


いやいや。


なんか、そんなことしたら、私がどうしても一緒に食べたいみたいで小っ恥ずかしい。


ドアが閉まる音を聞いて、私は一人で部屋に戻った。



「あちゃ、二枚焼いちゃった…」


いつもの癖で、つい食パンを二枚焼いてしまった。


テーブルの上には、瑞稀の分の朝ごはんが並んでいる。


ダイエットしようと思ってたのに、仕方ない。


心の中でため息をつきながら、椅子に座った。


数分後、ドアがノックされた。


驚いてドアを開けると、そこには瑞稀が立っていた。


「なんだよ、まだ怒ってんのか?」


私は少しだけ眉をひそめた。


「別に怒ってないけど…」


瑞稀は一瞬だけ微笑んだように見えたが、すぐに元の顔に戻った。


「実はさ、さっきコンビニ行ったら、俺の好きなパンが売り切れてたんだよ。だから、仕方なく戻ってきた」


その言葉に、私は思わず笑ってしまった。


私がどうしても朝早くに会社に行かないといけなくて、朝ごはんを食べれない時はプロテインで乗り切ってるって言ってたくせに。


瑞稀の一芝居が、私の心を和ませた。


意地を張っていた自分が馬鹿らしく思えた。


「ほんっと仕方ない奴なんだから」

「まあ、そういうことだから、一緒に食べようぜ」


「今日だけ特別だからね。入って」


瑞稀は嬉しそうに部屋に入ってきて、テーブルに座った。


私も向かいに座り、二人で朝ごはんを食べ始めた。


「てかなんで二人分?」


瑞稀がテーブルの上の食事を見て、疑問を投げかけてきた。


「いつもの癖で二枚焼いちゃったの」


私は少し照れくさくなりながら答えた。


瑞稀は

「へー」

なんて言いながら、なんかニマニマしてくる。


「何よその顔」

「別に?」


その表情に少しイラっとする。


「明後日から会社だ…」

ため息をつきながら、仕事のことを考えると憂鬱になる。


お金のために働いてるけど、正直それだけなんだよね。


別に自分の好きなことを職業にしたわけでもないし。やりがいも全く感じてない。


「は?今日まだ土曜だぞ?」

瑞稀の言葉に、私はさらにため息をつく。


「土曜日でも出勤への負のタイムは始まってるの」 「なんだそれ」


出勤の恐ろしさを知らないなんて…


「瑞稀はいいよね」

「なにが」


「出勤しなくていいから」


私も毎日家で仕事したい。


「出勤してないだけで俺も仕事してる」


んな事は分かってんのよ。


「別に誰もヒキニートなんて言ってないし」


瑞稀はいいよねぇ。


自分のしたいことを仕事にして頑張ってるんだもん。頑張れてるんだもん。

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