第5話

「なんてな、梨華の事だから背負い投げとかして自分でなんとか出来そうだな」


背負い投げなんて、出来るわけないじゃん。


瑞稀の冗談に少しイラっとしながらも、心の中で反論する。


もう怒った。


「瑞稀、私…」

「何?」


「今日一緒にご飯食べてやんない!もう自分の部屋に帰れ!バカ!」


私は怒りに任せて瑞稀の背中を思い切り叩いた。


「痛て一よ、馬鹿力かよ」

「コンビニのパンでも食べとけ!お前にやる飯はない!」


瑞稀の腕を引っ張り、ドアの外に押し出した。


瑞稀とは毎朝一緒に朝ごはん食べてるのに。


何年も前からなのに、お酒って怖いよね、普通に忘れてた。


いつから一緒に食べてるっけ…


確か、瑞稀の隣に引っ越してからだ。


「なんだよ急に。暑い、開けて」


瑞稀の言葉に少し心が揺れるけど、意地を張ってドアを閉める。


「いや、今日は!一緒に食べない!」


「あー、そう言えばさっき優奈と会ったけど…まさかいじめたのか?」


「はい?!いじめる?私が?優奈を?なんの為

に?」


暑さのせいで頭やられたか?


「冗談だって」

「そんなに面白くない冗談初めて聞いた」


「まぁ、どうせ結婚したくないとか言い出したんだろ」


「へ?凄いどうして分かったの!?」


昔から瑞稀の洞察力は凄かったからなぁ。


「何年一緒にいると思ってんだよ」


「解決できたらいいんだけど…」


心配でたまらない気持ちを抑えきれずに言葉にした。


「あいつらなら大丈夫だろ」

瑞稀の言葉に少しだけ安心した。


瑞稀が信じているなら、きっと大丈夫だと思えた。


「そうだよね」


「そうだよ。心配するだけ無駄」


これはどうでもいいって思ってるからじゃなくて、二人のことを信じてるから。


言葉が足りないから誤解されやすいけど、友達想いですごく良い奴。


「うん…」


分かってはいるんだけど、それでも心配なんだよね。


「お前はよくやってるから、心配しなくても大丈夫だと思うぞ?」


瑞稀の言葉に少し安心するけど、素直に受け入れられない自分がいる。


「瑞稀…お涙頂戦作戦には騙されないんだから」

「ちっ、騙されねーか」


「私をなんだと思ってるの?」


瑞稀の言葉に少しムッとしながらも、心の中では彼のことを理解している自分がいる。


彼のクールな態度に隠された優しさを知っているからこそ、こんな風に言い返せる。


「はぁ、自分の部屋で食べるわ」

瑞稀が部屋に戻ろうとするのを見て、少しだけ胸が痛んだ。


いつも一緒に食べているのに、今日はどうしてこんなに意地を張ってしまうんだろう。


「そうしてくださいー」


意地を張り続ける自分に少し嫌気がさしながらも、素直になれない。


「つれない奴め」


「なんとでもお呼びください」


瑞稀とだからこそ、こんな風に言い合えるんだろうな…



いや、断じて好きという訳では無い。

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