月光浴がしたくって

 女は、外へ出たのです。


 どこからか歌が聞こえました。


 女はほうきを取り出して、声のぬしを探ってやろうと

 出掛けていきました。


 やがて見える造りかけの塔。

 そのいびつな姿。


 女は、歌声のぬしを見つけました。


 男は、女の姿を目にすると

 両手を広げて

 感嘆の声をあげました。


 女が男をじっと見つめると、

 男はふいと目を逸らしました。



 女は男に尋ねます。

「そなたは、そこで何をしておる?」



「私は、歌を歌っております」

 男は、胸の内の高鳴りを必死で押さえて答えます。

「星々の美しさを讃え、歌っておるのです」


「なぜ、そこで?」

 女は、至極当たり前の質問を向けます。

 こんないびつな塔の上

 なぜ、そこで歌うのか、と。


 男は、寂しさを悟られたいと唇を噛み、

 俯いたまま。

 握った手から

 悔しさが滲んできます。


 塔から降りられなくなった、など

 口が裂けても言えません。

 言いたくないのです。

 認めたくありません。

「……」


 何も言えずに黙る男に女は、ふと持ちかけました。

「月に挨拶はしたのかえ?」



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