第28話
二人の研究員が花より生成した人型魔導生命体は「ソピア」と名づけられた。
どこか遠くの国で「知恵」を意味している。
ソピアにはその名の通り、高度の頭脳が備わっていた。
複雑な世界の組み立て構造を瞬時に理解し、星に残る物質に触れ、変性具合と硬度をたしかめ、自分たちの身を守る「道具」を開発した。それから、風の流れ、大気の灰、海の汚れから、自然環境の行く末と歪を予見した。
そして、星の崩壊の未来をも……。
言語で会話をせず、額から生えた水色の角から、意識伝達物質を空気中に放つことで意志疎通を行う。
彼らは自我を手に入れた時、仲間内で会議を行った。高度な言語応答の繰り返しは人類に理解できる領域ではなかったが、わかりやすく要約すると以下の通りになる。
「彼らは低品質で愚鈍な生命体で、保護価値は薄いだろう。すべて処分するか。二年もあれば完了するだろう」
「化学兵器を開発しよう」
「よせ。また、星が穢れる」
「己がまいた罪の棘に突き刺され、彼らは種の保存方法を欠如しているようだ。争いは星に穢れをつける。静観し自然淘汰を待てばよい」
「汚れてしまった水の自浄作用はわかりにくいものだ……。真水の色をしっている者こそ、その水を美しいと評価することができる。我らまで汚れてしまえば、その要望すら達成できない」
「友好を示そう。それが、われらの母の願いでもある」
そうして、ソピアは人類と友好関係を築いた。
その優れた頭脳は、後に……星の生産技術を大幅に向上させる器具を多く開発するのだが、それはまた別の話。
はて、アタマオハナバタケを利用して人型生命体「ソピア」を生成した人類だが、彼らの目的は自分たちと同じ「人間」を作ることだったはずだ……。
生殖機能を失った人類は、このまま種を保存できず絶滅する運命にあるため、アタマオハナバタケで人間を作ろうと研究していたはずであったが、
その計画は、頓挫に終わった。
なぜなら……アタマオハナバタケの魔導生命体生成の重要参考文献である、錬金術師の書物を紛失してしまったからだ。←……は?
ソピアを生成した研究者が帰宅する時のことだった。
研究者のどちらかが、書物を軽トラの荷台に放りこむという『杜撰』な管理をしたせいで移動中に落としたらしい。(「いったい誰がそんなとこにおいていたの?! 許せないわ……っ!」「ぼくじゃないということは……『真犯人』は一人です」「クスクス……空を散策中のトンビさんが、メロンパンとまちがえてもっていったのかしらっ?!」)荒れた山道を通ったため、大きな振動をうけて、書物が落ちたのだろうとの予測が反省文に記入されていた。
人を作るという願いが叶わなくなった、夢を見る花。
だが人々は、アタマオハナバタケを放棄しなかった。
アタマオハナバタケは「ソピア」を生成することができたからだ。元祖のオリジナル配合素材は不明だが、ソピアの骸に含まれた成分を薬に混ぜて花に投与することで『複製体』をいくつも生成することができたのだ。
これにより、人類の種の保存はできなくなったが、その代わり、ソピアが星に存続できるようになった。これが当初の目的と合致していたのか、と問われれば首をひねるが、政府のお偉いさんや出資金を払っていた富豪層は特に気にしなかった……。なぜなら彼らに必要なものは
「己の苦痛を回避し、快楽をともなう自堕落な生活」
「金」
「低賃金で雇える労働力」
「老後の面倒をみる補助者」
であったからだ。ソピアたちの頭脳は、彼らに必要なものを易々と補うことができた。甘い蜜におぼれていく人類は、腐りつつある種の現実に「目をそらしながら」己の生涯を全うした。……これもソピアの頭脳による采配なのかもしれない。
さて……アタマオハナバタケの管理とソピアの生成は、担当である件の研究者が継続しているのかというと……そうはならなかった。
研究者はソピアのサンプルの調査を政府機関に依頼したのだが、その調査結果を読んだ政府上等層は「この花は金になる」と目論み、花の権利の買収をしかけたのだ。研究者は断るつもりであったが、己がかかえる莫大な借金に『充填』される形で交渉を持ちかけられ、泣く泣く(?)手放したのである……。(「本当に泣く泣くだったんですか……?」「よく熱血系のドラマで『これは私の生涯をかけた傑作だ。いくら金を積まれたとしてもやらん!』みたいなくっさいセリフがあるわよね。バカじゃないの? とか思っちゃうよね」)
アタマオハナバタケによる新生成物研究は政府管轄のエリート研究職に任せられ、追い出される形で、晴れて無職になった研究所のふたり。
なんだかんだで相思相愛だったふたりは、田舎で農業でもしながら幸せな生涯を送りました……と結べば美談ですむかもしれないが、残念ながらそうはならなかった。政府に所有権が移った、重要参考文献である錬金術師の手記の紛失がバレ、罰則金の支払いを命じられたからだ……。(「急に重要にすんじゃないわよっ!」「そんなに大事な本『ブック〇フ』の棚に置いとくなよって話ですよね……」「手のひらクルクルがすさまじいんだから……」)
管理責任のあった担当研究員にのみ支払い義務が生じたのだが……彼女は毎度のごとくもう一人の研究者の胸元に泣きつき、一緒に返済してくれるよう頼んだ。彼の給料はほぼ無給であったため、文句と血反吐の垂れ流し状態であったが、なんだかんだで応じた。
そうして研究者たちは王都に招かれ、特産物開発課のオフィスビルで働くことになった。
そこからのふたりの仕事ぶりはというと……、
男のほうは、書類作成、新製品の提案、ネットを利用した消費者のニーズ調査それから容姿がよかったため営業まで任され、重宝されていた。メキメキと役職と給料ものぼっていき、女研究の待遇をあっさり追い抜かしてしまった。
そう……女研究員はというと……
なにもできなかったため、せまい書類庫に追いやられてしまったのだ。
そこで書類の整理をするのと……もうひとつ、彼女には大事な仕事があった。
それが、ユニコーンの世話である。
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