第12話

 よしっ、今日のレポートも書き終えたわっ♡

 もちろん、今日も新生児は生成されてなかった!

 税金のタダ喰らいのできる平日の朝はサイコーね♡公務員の国家権力に平民はひれ伏すといいわっ!


 はて、今何時かな? えーっと……触葉薬の投与はいつもより早く終わったようね。

 せっかくだから、培養室のメンテナンスしよう。


(そうね……天気予報をみたかぎりではしばらく雨はふらないようだから、スプリンクラーをタイマー設定にして、定期的に水を散布するようにしておこ。それから日照量がここのところ少ないわ……。採光用の天窓を全開にして……でもそうすると虫が入ってくるから、害虫に花を食われないよう、薬も適量散布しておきましょう。あと……土がすこし痩せてきた気がするわ。時間が余ったら、森から落ち葉を拾ってまいておこ)


 テキパキテキパキ……

 カチッ……カチッカチッ……キーコキーコ

 しゃあぁ……しゃあぁ……


(ふ~……作業がスムーズに進行すると、気持ちがいいわね。スプリンクラーから吹き出る水が、淡い虹をつくってて……SNS映えしそうな光景。蝶でも飛べば、さらに美しいカモメ。ア……でも、雑草も生えているからちょっと見栄えが悪いわ。草刈りロボットに任せてもいいんだけど、あの子たち、時々ミスするのよね……。まゆかにやらせようかしら? いつもなら助手君に手伝ってもらうけど……ア!)


 そうだったわっ! のんびりしている暇はないわっ! まゆかが助手君に色仕掛けを企んでいるんだった……。このままじゃ助手君がとられちゃう! 早急に対策を考える必要があるわっ!

 私は培養室をとびだし、大急ぎで研究所の方向へ駆けだした。


 タタタタタタっっ!!!


「はぁ……はぁ……」

 急に走ると……お腹がすくわね。

 あぁ……なんか食べたいなぁ……。

 ぐー……と鳴るお腹を抱えた時、私はすばらしいアイディアをおもいついた!


(そうだわっ! なんでこんなかんたんな秘策に気づかなかったのかしらっ!)


 そのアイディアに気づいた時、私はもう研究所の玄関口にまでもどっていた。

 まゆかのサンドイッチが入ったバスケットは、草刈りの邪魔になるからと、玄関の戸棚に置いてあった。


(秘策とは……すなわち、助手君の胃袋に入る前に私が食べちゃいましょう作戦よっ! フフ、すこし良心は痛むけれど、まゆかには昨日牛乳プリンをあげているもんね♡これくらい許されてとーぜんよっ!)


 それじゃ、いただきまーすっ♡

 パクパクむしゃむしゃ……

 ん~♡とってもおいしいわ!


 お腹が空いていたから、三つのサンドイッチはあっというまに私の胃袋に消えてしまった。まゆかよ、覚えておきなさい。この世界は『弱肉強食』なの。


(ふわぁ……お腹がいっぱいになったら、すこし眠くなってきたわね。助手君にコーヒーを……あれ、そういえば助手君のすがたが見当たらないわね? キノコを見張るようにいっておいたのに、キノコといっしょに消えているわ……)きょろきょろ……


「助手くーん、どこ~? 美人な博士ちゃんが帰ってきたよ~?」


「は、博士~」


 声は、私の部屋の方から聞こえた。


「どうしたのよ~? そんな泣きそうな声だしちゃって」

 どうしたのかしら? もしかして、私の下着を漁っていたんじゃ?! それで……うれしすぎてあんな情けない声をだしている……。いやそんなわけないか……。私は靴を脱ぎ、スリッパに履き替え自室に急いだ。


「コラ~助手君、ダメじゃないっ!

 キノコの見張りをしてなきゃ……ってどわぁ!」


 そこでみた『助手君の変わり果てた姿』に私はおもわず悲鳴をあげた。


「助手君、どうしたのよっ! カッコいいくらいしかアイデンティティーのないあなたの顔が、真っ赤っかに腫れあがっているじゃない!」助手君は床に倒れ、力のない瞳で私をみていた。その顔には、痛々しい刺し傷の痕が無数に散らばり、赤黒く腫れていた。


「誰にやられたのっ?! まさか、私の人気に嫉妬した産業スパイによる犯行?!」


(あなたにスパイがくるわけないやろ……)「は、蜂です……」


(蜂? ア……やべっ)「八? 七でも、九でもないのね?」


(ア、やっべぇ……まゆかがきたからハチミツこぼしたまま処理してねーわ)


「……今は博士の冗談につきあっている余裕はありません。博士の部屋からすさまじい羽音がするから見に来たら……なぜか蜂の大群が押しよせていたのです」


「ふーん……ついに私の人気は、蜂にまで浸透してしまったのね」しどろもどろ……


「そして……今の今までぼくは蜂を追い出すために死闘を繰り広げていたのですが」

 助手君、そんな恨みのこもった目でみないで……。私が悪者みたいじゃない……。

「どうして……蜂の大群がやってきたか。博士、なにか心当たりはありませんか?」


「フム……そういえばクマのプー○んが家庭訪問に来るとかいっていたわね。その時ハチミツをこぼしたのかしら」


「ほんとうに?」


「ム?」


「正直にいえば……今なら怒りませんよ?」


「……」




「ただいまですぅ~♪草刈りまだまだ時間かかりそうですけど~ちょっと休憩~♡ってどわぁ!」


 きぃ……きぃ……


「ぐすっ……ぐすっ……」


「博士ちゃん……どうして吊るしあげられて泣いているの? あれ、チラシが貼ってありますね? 『私はハチミツをこぼし、そうじをしなかったむのう博士です。今、はんせいのため、つるされています』」


「……ち、ちがうのよ」


「……はぁ」


「やっぱり今の時代は植物学者なんて時代遅れなのよっ! 空のひとつやふたつとべナイト! 時代は航空技師よっ! 今、空の気分を先取りしているんだからっ」ぐすんぐすん……

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