第11話
(さて……ニンジン作りどうしよう? そういえば種は、以前農業組合がサンプルでくれた物があるわ。でも、裏の畑が荒れ放題だわ)
「ねぇねぇ博士ちゃん」
「ム?」
「さっきみたキノコさん……うごいていたの?」
「そうよっ! あなたと同じで落ち着きがない、あわてんぼうのキノコなのよっ!」
「ふーん、最近のキノコさんはうごくんだねっ! まゆか、しらなかったよ」
そういえば、とある先進国のレポートに、新種のキノコが発見されたとあったわね。日照量の減少と汚染灰の増加により、キノコの生態系が崩れ、独自の進化を遂げた新種が確認されたとか。……灰につつまれたこの星において、多くの野菜は生育困難に陥っているが、ジメジメと薄暗い環境下でもたくましく育つキノコは、優秀な食料として研究が進められている。
あのキノコも、新種の一種なのかな?
菌糸類の研究機関に送ればよろこばれるかも?
いやまてよ?
(そもそも……あれは本当に植物なのかしら? 不規則に脈動をつづけるあの体は、どちらかといえば、動物……そうね、光の屈折、あるいは周りの色彩へ混ざり入ることで、自分の本体を隠そうとする……つまり、擬態生物のようにみえるけれど)
「フフフ……」
「? ……なによまゆか~。人が真剣に考えているときに」
「実はですね~♡今日、助手さんのためにお弁当を作ってきたのですっ!」
「えっ?!」
「といっても、まゆかのお家はビンボーなので、安い食パンで作った、かんたんサンドイッチなのですがっ……。助手さんが食べてくれるとこを想像すると、自然に頬が緩んでしまうんです~♡」
「あ、そう」
(ま、どーせ私と同じで料理なんかできないでしょ……)プククク……
「ア、その顔、また私のことバカにしているでしょっ! ホラ、博士ちゃんの分もあるから食べてみてっ♡」そういって……まゆかは持っていたバスケットから、サンドイッチをとりだした。
「ふ、ふーん、まぁそこまでいうなら食べてあげましょう」ジュルリ……←けっきょく朝ご飯を食べていないので、お腹ペコペコ。
パクっ……
モグモグモグ……
(……! 安い食材しか使っていないけれど、素朴な味わいでおいしいわ……)
「……まぁまぁってとこね」
「クスクス……博士ちゃんって、ほんとうに顔に出やすいよねっ♡素直じゃないの、かわいい~♡」
(グヌヌヌ……こんな子供に手玉にとられるなんて!)
「あーぁ、助手さんに食べてもらうの楽しみだな~♡」
(まずいわっ! このままだと助手君がとられちゃうっ)
妄想中……↓
「やべ、このサンドイッチうまっ! まゆかたんは天才だっ! すみません、博士っ! ぼくはロリコンなのでロリババァの博士よりも、まゆかたんとともに生きていきますっ!」
「そ、そんなあんまりよっ……。私の何がダメだというの……?」
「え……だって博士は、胸は小さいし、お肌には小じわが目立つし、部屋をいつもちらかすし、作る料理は危険な毒物だし、時々おねしょするし……それになにより」
「なにより?」
「博士はロリババァで年増だけど、まゆかたんはベリーキュートな真正ロリっ娘だぁ♡それだけで充分♡」
「ヒドイ、私を捨てないで~」メソメソ……
「ということだからロリババァ、まゆかは助手さんと幸せに暮らしますっ!」
「ハッハッハッ……では博士、さーよーおーなーらー。お元気で~。ア、退職金きちんと振り込んでおいてくださいねーーー」パッカパッカ……←馬に乗って去ってゆく音……
妄想ここまで↑
(あのロリコンなら手料理で一撃で沈みそうだわっ……。早急に手を打たないと)
「あの~博士ちゃん? 顔真っ青で立ちどまっていますけど、どうしたんですか?」
「え……アァ、そうねっ! 今度国会議員に立候補しようかな? とおもって公約をかんがえていたのよっ!」
「……? そうなんだ? えぇっと、ちょっとききたいんですけど」
「なに~? 私が誕生日にほしい物についてかしら~?」
「あのっ! 助手さんと博士ちゃんって、おつきあいしているのっ?!」
「……っ! そそそそそそんなわけないでしょっ! 私みたいな高貴でビューティフルな女が、あんなヒョロヒョロ君と釣り合うわけないんだからっ」
「そっか~、よかった~♡なら、まゆかと結婚してもだいじょうぶだよねっ」
「えぇっ?!」
「え、なにかまずいの?」
(助手君がとられちゃうよ~……。でも今さら私も好きだなんていえないし……。そうだわっ! 助手君の悪いところを列挙しまくって、幻滅させましょう♪)
「コホン……まゆか。助手君はあなたがおもっているほどイイ男じゃないかもよ?」
「えぇっ?! そうなんですか?」
(とおもったけれど、アイツに悪いところなんか、あったかいな?
んー、とくに見当たらないなー。アイツ、さりげなくなんでも卒なくこなせるのよねー。私の部下のくせにナマイキね……。そうだわっ)
「そうよ……ええっとまず……助手君は部屋がきたないわっ! 掃除ができないから、いつも私が掃除しているんだからっ!」
「それは任せてくださいっ! まゆかのお家はいつもママの帰りが遅いので、お掃除はまゆかのしごとですっ」
「……それから、助手君は料理ができないから、いつも私が作っているのよ?」
「えぇ……? でも、それで昨晩、助手さんお腹壊したんだよね? 博士ちゃんよりはまゆかの方がうまくできる自信あるカモ……」
「……。……。……あ、あと。……助手君は時々、おねしょもするのよ?! あの歳になってまでおねしょよ?! そのおねしょした布団は、いつも私がお洗濯しているんだからッ!」
「わぁ~♡まゆか、赤ちゃん? っていう子のおしめ取り換えるの夢だったんですっ! 助手さんがおねしょしても、まゆかが毎日取り換えてあげますっ」
(うぅ、私のダメなところをいったのに……私がまゆかを嫁にもらいたいくらいよ)
そうして私たちは二手に分かれた。私は培養室でアタマオハナバタケの品質チェックへ、まゆかには裏の畑の草刈りを任せることにした。
……この時、私は知らなかった。
危険な魔の手が研究所にひっそりと忍びよっていることに……。
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