第8話
晩ごはんのあと、助手君は腹を抱えて倒れた……。
(やっぱりあのキノコ、色がおかしかったものね……なんだかうごいていたし。けっして私の料理の腕が悪いからではないわっ)
……まぁちょっと色合いが怖かったから、というかほぼ炭だったから、私はカップラーメンを食べたけど。
そんなことはどうでもいいのよっ!
契約している保険会社の契約要項を探すため、私は書庫におとずれた。
(さーてと、食中毒、および胃潰瘍だといくらもらえるのかしらっ! でも最近の保険会社ってどこもケチなのよね~。灰汚染の時に出た保険会社は大量の保険金請求を前にトンズラこいたし、やっぱり保険という商品はどこも詐欺なのかしら?)
数十分後……。
(みつからないわ……。やっぱり時々整理整頓しなければダメね……今度まゆかがきた時に押しつけましょう)
休憩がてら、一冊の書籍を手にとった。
昔生きていたとされる、幻獣について書かれた本だ……。
私は書庫のすみっこにある棚に腰かけて、つかのまの読書を楽しむ。
ペラペラペラ……
(どちらかといえば子供向けの内容の本なのね~。過去に生きていた幻獣の絶滅の歴史、それから、人類の起源について書かれているわ……。私が中等学校で習った歴史では……人類は、龍の骸が分解され、その成分を糧に成長した花が先祖となり、種を受け継いでいったのよね……。
私たちの起源の源流が花ならば、たしかにアタマオハナバタケが元となって人間が産まれることもありそうね)
ユニコーンのページはあるかな……。
あったわ。魔術師と狩人が戦争をしていた時代、魔術師が騎乗用として使役していたみたいね。
美しい白い体、美しい翼、解毒成分をふくんだ輝く角……。たしかに彼らは存在していたようだけど、その歴史は長くなかった。理由はふたつ。その美しい体の部位は高く売れたため、狩人に乱獲されたこと、そして。
—―対立をもとめない、平和の象徴ともいえる幻獣。
もうひとつは……戦争だった。まゆかのいうとおり、彼らの多くは闘争心が低く、友愛をもとめていた。そのため、長期化する戦いに、肉体と魂が追従できなかったのだ……。さながら、ブラック企業につとめる、心優しい社員がうつ病になっていくようなものだろう……。助手君がうつ病にならないのは、さながら優秀な上司のおかげということだ……。
(翼はあったけれど、やはり飛行能力は低かったようね。魔術師たちは早く飛べなくても、やさしい性格の彼らを友人として大事にしていた。
けど、戦争においてそれは不利。狡猾さと残忍さを武器にした狩人陣営が戦争に勝利したのもうなずけるわ……ア、予想最高飛行速度も記載されている)
私は白衣のポケットからボールペンをとると、机の引き出しから電卓とノートをとりだした。あと、競馬新聞もついでに開く。
(たしか……今、競馬界トップ層の馬の最高速度はこのくらいだから……。
カタカタカタ、と。
んー、これなら万年ビリクラスね……。ユニコーンの生成に成功したとしても、悠々自適の生活にはほど遠いなー)
計算を終えたノートのページをちぎり、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てる。
(えーん、この研究所がつぶれたら、馬主として生きていきたかったのに! これはいよいよ助手君にもらってもらうしかない? でも男って若い子の方が好きよね……。私じゃ……あわわわ、私だってまだ若いわよっ)
それからしばらく読んでみたけれど、ユニコーン生成方法の記述はなかった。そりゃそっかー。たしか、あのエセ錬金術師の詐欺日記にもユニコーンに関する記述はなかったような? まぁ隅から隅まで読んだわけではないけどねー。
(あの子はお金のために動物の生成がしたいわけではない……。ただ、父にあいたいという目的のために、ユニコーンを求めている。うらやましいものね、そんな純粋な気持ちであの花に向き合えるのは。私も……昔はあんなかんじだったのかなぁ)
眠くなってきたので寝ようと本を閉じると、裏表紙に書かれた、本の作者のサインを見つけた……。それを見た瞬間、私の頭のなかに稲妻が走ったっ!
ダダダダッ
「助手君、生きてるっ?!」ばたんっ
助手君は便器に顔をつっこみ踞っていた。
「おえー……は、博士、吐いてるんですから、トイレはその辺の木にでもしててください……」
「わわわ私は犬じゃないわよっ! もう、くさいわねっ! あんた、後でちゃんと掃除しておきなさいよっ! それよりも、すごいことに気づいたの」
(どーせ、大したことじゃないんだろうな……)「まず、あなたの作る料理の危険性に気づいてほしかった……」
「ななななによっ! 私が悪いんじゃなくて、あのキノコが悪いのよっ」
「キノコの危険性に気づけないのに、よく植物学者名乗ってますね?!」
「あれ本当にキノコなの? 勝手に動くじゃないっ!」
「おぇえ……すみません、ちょっと死にそうなので早いとこ要件をいってください」
「あぁ、そうだったわっ! 私ね、お金を工面する方法をみつけたのっ♪」
「はぁ……」
「ふふんっ! 今回のはすごいわよっ! 名づけてサイン会を開いて本の価値をぶちあげよう作戦よっ♪」
「……?」
「サイン本って高く売れるのよっ! しらないの? ネットで私のファンの情報弱者に高値で売りつけてお金をゲットするの♡
ついでにサイン会を開くことで本の売り上げもアップよっ!」
「は、はぁ……それはいいのですが」
「なによ? 不服そうね」
「博士にファンって、いましたっけ? 博士が自費出版でだした自伝、かなり売れ行きがヤバかったような……」
(そういえばそうだったわ)
※ネタばれ注意
この自費出版した自伝は、のちに重要な伏線になります。
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