第5話
この花には……気狂いを意味する名前のとおり、夢と魔粒子がいっぱいつまっている……らしいわ。
くわしいことは研究中だけど、異電子空間からエネルギーが送りこまれていて、それが生命力を作るんだって。
さまざまな物質をまぜた薬……『触葉薬』を与えることで、アタマオハナバタケは幻獣を生成した。迷惑なことに、過去の偉大な錬金術師はそういっているの。それで錬金術師は……その幻獣を使役し、自身の補佐をさせていたらしいの。戦いに投じられていたかもしれないわね。
「この虚言まがいの言い伝えをしんじて、私はアタマオハナバタケに水を与えているわけ。まゆかの弟、妹……つまりは、赤ちゃんを作るためにね」
カキカキ……
レポートを記入する片手間に、まゆかにアタマオハナバタケについて説明する。
今日も花は何も作りませんでしたっ! てへっ♡でも、とってもかぁいい♡と……まぁレポートなんてこんなものでいいでしょう。
政府のお堅いサルたちは三行以上の活字を読むと沸騰するという研究レポートをみたことがあるし。
「どうして赤ちゃんがいるの?」
「死ぬ時にだれもお友達がいないのは、さみしいでしょう?」
「……うん」
「つまりは人間のもつエゴのために作るのよ」
「???」
「まぁそんなことはどうでもいいの。実用性とか倫理観のまえに私は雇われた職業人に過ぎないのだから、歯車として、与えられた責務に全うし金を得るだけ。
そうね、まゆかのわかりやすいところでいうと……アタマオハナバタケは生命を生成するだけじゃないのよ。昔はアロマの効用があるともいわれていたの……。余談だけれど、枕元にかざることで夢見もよくなるんだって。
たしかに寝つきがよくなるというのは本当だけど、夢見については、たぶんこれは嘘ね!
きっと……香料会社の陰謀か、あるいは、このきれいな花びらに魅了された人々が、勝手にそんな尾ひれをつけたのよ。私も何度かかざってみたけれど、それほど変わった印象はなかったなぁ」
ぱたんっ……
レポートを書き終えて、ノートを閉じる……。
キョロキョロ……用具と土周りの確認!
ヨシっ今日も特に問題なし!
さて、さっさと帰って映画でもみようかな。
「私はもう帰るから、あなたもお家に帰りなさい」
「……よくわかんないけど、このお花さんはいろんな物を作ってくれるってこと!?」キラキラ~☆
(聞いてないわね……)
「なんでもってわけじゃないわっ……! 今までだって、大した物できなかったもの。カメムシが数匹……それも、たぶん森から飛んできたヤツよ!」
「まゆか……シナモンロールがたべた~いっ♡」
(シナモンロールは材料不足だから、今はとても高価で庶民には手が出ないお菓子ね)
「ママが読んでくれた絵本にでてきたおかしなんだよっ! 甘くてふわふわで~、ほっぺがとろけちゃいそうなんだって」
「動物を作るんだから、お菓子なんてムリよ! カメムシのソテーで我慢しなさい」
「カメムシさんはいやなの……」
「ふふん……塩コショウで味つけすれば意外といけるそうよ!」(知らんけど。今度助手君に食べさせてみようかしら? キノコだけじゃ、飽きるものね)
「あのっ……! じゃあ、このお花を一本もらうかわりに、お姉さんの仕事のお手伝いしちゃだめですかっ! まゆかも動物作りたい!」
「えー、なによー。わわわ私の高尚なお仕事は、あんたみたいな人生経験甘々なガキにつとまるものじゃないんだからねっ!」(マジッ?! ヤッター! 助手君に片付けろって言われてた雑用仕事、全部やらしちゃオーっと!)
「えぇ……じゃあかーえろっと」
ムンズッ!
「ぐへっ!」
培養室から出ていこうとする幼女のジャンパーの襟元を、私は思いっきりつかみあげた!
「コホンッ! まぁどーーーしてもっていうなら手伝わせてあげるわっ!」
「離してください! ロリコンに犯されるって叫びますよっ!」
「えぇ」
「……じゃあまゆか帰ります」
「まって……」
「手伝ってほしいなら、ちゃんとお願いしてくださいね?」
「くっ……お願いします、手伝ってください!」
「わかりましたっ! お姉さんのお仕事、まゆかもお手伝いしますっ!」
(クッ……ここぞとばかりに幼女スマイルでファンを獲得しようとしているわねッ。これだからガキは嫌いなのよっ!)
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