第2話
翌朝……朝御飯を待っていたら、ポストの方からカタンっと音がした。
(子供のころは夜明け前のポストの音におびえていた。
夜とは子供の私にとって冷たい黒色の毛布で、
卵の内部のような、
安寧をおぼえる空間であった。
その保護膜の夜が、ピキリとヒビが入り、バケモノでも忍びよろうとしているのではないかと錯覚をおぼえたからだ……。
私は歳をくい現実と空想の境目に多少は判断がつくようになり、もうひとつの意味でポストの音をおそれるようになった……。つまりは納税通知書、それから借金の催促の案内だね。
そんなことはどうでもよく、
新聞が届いたみたいね……。できる女は世事に詳しくナイト)シュパパパ!←剣の素振りもしナイト、ということらしい。
「助手君、新聞とってきてー」
「ムリです! 今、朝ご飯作っているんですから!」
(もう助手君ってば使えないんだから。……と、文句を言うと朝ご飯抜きになるカモメ。しかたない、博士じきじきに新聞君をお迎えに行きます!)
新聞を回収し、テーブルにもどると、いつの間にかコーヒーが用意されていた。
湯気がモクモクと立っている……。
(ムムっ……! 助手君ってば気が利くじゃない! できる女の朝は、クールにコーヒー飲みながら新聞で決まりよね~)
ごくりっ……
ぶーーーーっ!
あまりの苦みに即座に吹き出してしまった……。
「じょひゅ君ひろぃっ! このコーヒーブラックじゃにゃいっ!」
「あぁ、博士ごめんなさい……。忙しくて忘れてました……」助手君はそういいながら、フキンを手渡してくれた。
「これ、トイレふいたやつじゃないでしょうねー? この前そんなミスがあったわ」ふきふき……
「たぶんだいじょうぶですっ! でも博士、できる女はブラックでコーヒーを嗜むものとかいってませんでした?」
ふきふき……
「誰だってそういう時期があるわっ。ともかく、この苦さは暴力よ!」
「博士は半分以上ミルク混ぜてないと飲めないですもんね……」
「まぁね♡ミルクは牛さんの優しさでできているのよ!
結婚するならやっぱ優しい男にしろって低所得層の読む婚活情報冊子に書かれていたわっ! まぁ~私には関係のないことだけど~♪
人生は苦みの連続なのに、なんでコーヒーまでこんなに苦いのっ?!」
「飲めないなら捨てますか? もったいな。アタマオハナバタケに与えてみてはいかがですか?」
「バカいいなさい! 根腐れを起こしたらどうすんのよ!」(とはいったものの、良いアイデアかもしれないわね……。コーヒー色の花びらが成るかもしれないわ……)
「あっ! 博士大変です!」
「なに~? また痔にでもなったの~?」
「博士のこぼしたコーヒーが! 錬金術師の日記を汚しています!」
「なにそれ、ウケる」
「博士、顔面蒼白じゃないですかっ! とりあえず、汚れる前になんとかしナイト」シュパパパ!
「これがないとアタマオハナバタケにどんな薬を処方すればいいかわからなくなるんでしょ?!」
「まー……元々、参考にしてもなにもできなかったし、いんじゃね?!」
「えー……」
「クスクス……ねぇ、しってる?」
「え、博士の誕生日ですか?」
「この錬金術師の日記がどこで売られていたか……」
(……売り物だったの?)
「これ、ブック○フで売ってあったそうよ。底値で……」
「マジっすか……」
「まーだから汚れても大丈夫でしょっ! さぁ、朝ご飯にしましょう♪」
気を取り直して朝ご飯をたべていたら、
「あれ、博士。新聞に封筒が挟まっていますよ!」
「アラ、どうやら政府から通達書が届いたようね」
「まーた博士の下着の色聞くセクハラか、もしくは納税の催促でしょうね」
ビリビリビリリ……
封を切り、中に入っていた文書に目を通す。
「クスクス……残念だけど、ただの研究資金削減の案内だったわ!」
「……そりゃキツいっすね」
堅苦しい文が書かれた紙をくずかごに放り投げ、私は腕を組んだ。
「そんなに資金を削減したければ、あなた達の呼吸でも止めていればいいのにね……エコにも貢献できるわっ」
「博士、今までお世話になりました」
「えっ」(助手君にいったんじゃないよ?! 助手君に死なれたら私困っちゃうわっ)
「いやー今でも研究所の運営は火の車なのに、これ以上予算削減されたら……どーせ博士のことだから、ぼくの給料を削るんでしょう? 無給で働く気はさらさらありませんっ!」
「落ちつこっ! まずはあなたの食費からメスをいれましょう!」
「えぇ……やっぱりぼくの取り分が減るんじゃないですか……」
「助手君、これ貸してあげる」
「なんですかこの本。キノコの写真が表紙ですね」
「キノコ狩り初心者用ガイドブックだ」
「は?」
「今日から君の主食はキノコよっ!」
「いやですよっ! マ○オじゃあるまいしっ! それに、灰で汚染されているじゃないですか!」
「除菌水で煮沸消毒すればいける……たぶん。それに、だいじょうぶ」
「……え、なにが」
「ちゃんと保険をかけているから、いざって時はお金が振り込まれるわっ」
「……」
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