負荷孵化 ─ふかふか─
木目ソウ
第1話
昔々……。
いや、あるいは遠い未来か、それはわからないけれど、これは『いつか』の話。
深い森の中……と居住者のふたりはおもっているかもしれないけれど、実は町のすぐちかくの浅い森にその研究所はありました。
研究所では、ふたりの研究員が手を取り合い(?)仲睦まじくすごしていました。
ふたりの仕事は、とある花の世話および研究です。
その花の内部を分解していみると、よくわからない物質が入っていて、得体のしれない力を持っているとされていました。それが生命の源であるという学説があったのですが、くわしいことはよくわかっていませんでした……。
ところでこの物語の星は汚染爆弾により、生命体の種が汚れていて、生殖による種の保存ができないのですが……。
この花は繁殖問題を解決する糸口になるかもしれない。
だれかは……(おそらく政治家嫌いな酒飲み)そういったかもしれませんが……。
残念ながら、
何事にも理論で固めたいお偉方はその花を『夢をみている狂った花』と呼び、忌み嫌いました。
そんな花を見るのも嫌だとおもったお偉方は、落ちこぼれなひとりの研究者に「名誉ある任務を君に与える」と『押し付ける』形で花の研究職を与え、森の奥へと送りこみました……。そして、彼女が泣きつくからしかたなく、もう一人の研究員がついてきてくれたのです……。
夢を内包したお花……そんな花を巡った、ふたりの話が始まります。
(892日目……アタマオハナバタケは、今日も新生児を作れなかった)
レポートを書き終えて、私はノートをとじた。
(空から灰がふっている。寒い……早く帰りたい)
「やぁ博士。むかえにきましたよ」そうおもっていたら、軽トラが止まった。
「助手君遅いっ!」
「博士が部屋にお菓子のゴミいっぱい散らかしていたから、片付けに時間がかかったんですよ! ……今日は新生児できてました?」
「できてねーよ」薬箱を荷台に放り投げ、助手席にすわった。
ぶろろろろ……
シートベルトをかけると、助手君は車を発進させた。「やっぱり馬主になるしかないカモメ」かーかー←博士ちゃんはよくカモメの物まねをするぞっ! 読者の皆はおぼえておこう。
「そうですか……いやー、これはいよいよぼくたちクビですかね? この仕事楽で気に入っていたのですが……あーぁ、再就職先あるかなー」
「君はヒョロヒョロだから仕事に困るかもだけど……私は美人で賢いわっ! 職には困らない。結婚だってよゆー」
「博士なんて植物にちょっとくわしいだけのニート予備軍じゃないですか! 朝は起きられないし、片付けもできないし、ご飯だって作れない! 結婚だってそろそろ年齢的に……」
「……そんなこと、ないわ。政府のおじさま方から、毎月ラブレターが届くもの」
「そーですか? ぼくにはあれ、未納の税金の催促状にみえましたけど」
「ちゃんと税金は納めないとダメよ♪助手君」(でも人類がうみだしたいらないお金の使い方って、納税と利子よね……)
「……あーぁ、給料もっと増えないかな~」
「アタマオハナバタケが新生児を作ればボーナスいっぱいもらえるわっ!」
「本当に植物が人間を作れるんですかね? バカげた空論に聞こえます。まだ猿に懐中時計作らせた方が、成功の可能性がありそうだ」
「この前カメムシが作れたじゃないっ♪」(たぶん迷子のカメムシが天窓から入っただけだけど……)
人類史最大の汚点と呼ばれた「灰の戦い」から十年たった……。
その時強力な汚染爆弾がいくつも落とされて……汚染された灰を吸ってしまった生命体は、種にいちじるしい損傷をうけた。
そのせいで失ったのは生殖機能……。
次世代へ種をリレーさせる力……だ。
正確には生殖機能そのものを失ったわけでない……。生殖によってうまれた子は、灰化してしまい、くだけてゆくのだ。これがどうやっても命をふきかえさない。縫合はもちろん、接着剤でもくっつかない灰屑なのだ……。
つまり、灰を浴びた星に残った動物は、未来に子を残す手段をなくしてしまった。
動物が次々に絶滅していく中……人類は別の手段によって子孫を残す方法を模索していた。そのうちの一つが、私たちの研究するアタマオハナバタケという白い花だったのだ……。
(まぁ……私たち以外の研究所が解決してくれるでしょう)
「助手君、新聞は読んだ? どこかの研究所がナイスな報告をしていない?」
「あぁ読みましたよ! 海洋卵保存研究所で飼育されているイルカのきゅーたろー君がっ!」
「きゅーたろー君がっ?!」
「ボールリフティング、十五回に成功したそうですっ! これにはサッカープロリーグも熱い視線を送っているそうです」
「……すごいじゃない! 失業したら見学にいこう!」
「はい! いきましょう!」
「もちろん、君のポケットマネーで」
「失業保険がおりるとおもいますよ!」
「税金で遊べるとは最高ね♪」
(ア……博士がよろこんでるからいいにくいけど、研究者の保険機構は実費負担で、それイヤがって博士加入しなかったわ。忘れてたわー。ぼくたち失業したら完全金なし無職だわ)
(そう簡単に新生児培養に成功するわけないよね……。
まぁでも、私たちが研究するアタマオハナバタケよりは、まだほかのプランの方が見どころがあるわ。実際にまがい物ができたことがあるし……。
この花に至っては、昔、すぐれた錬金術師が花を媒体にして、魔導生命体を作っていたという『日記』が残されているだけなのよね。……そんなのが重要視されるなら、私も日記をつけようかしら? 賭け事ばかりくりかえし『借金』という悪魔的な生命体を残した偉大な博士として将来評価されるかもしれない)
古ぼけた日記の紙面は風化がすすみ、所々インクがにじみ読めなくなっている。
お酒のにおいがする。
錬金術師は酒を飲みながら、虚偽の事実を日記に書いたのではないか? だって彼の配合例どおりに『触葉薬』を土にまいても、魔導生命体は生まれないし……。昔とちがって、材料が灰に汚染されていることも原因かもしれない。
(だいたい名前がきにいらないわ……なによ、アタマオハナバタケって。
きっと初めに発見した人の頭のなかがお花畑だったのよ……
でも……こんな意味不明な花に頼らないといけないほどに……人類は追いつめられている。
それほどに種の存続というのは、生き物に大切なファクターだったのだ。
しかし、あがくしかなかろう)
私はダッシュボードからタバコとライターをとりだし、
シュボ……
火をつけ、一服することにした……。
(そうしなければ、人類は滅亡するだけだ……ヤニはやっぱうめーぜ)
「ケホケホ……」咳が出たわ……。
「こらこら、博士はタバコ吸えないでしょ? 勝手にぼくのタバコとらないでください」助手君はひょいとタバコをかすめとった。
「ム、そうだった。ちょっとカッコつけようとおもって……」
「やれやれ……」
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