嘘から始まる恋

りぃ

嘘から始まる恋

「嘘の彼女になってくれないか?」

突然の申し出に、カナは驚いてシンゴの顔を見つめた。学園一の人気者である彼からの提案は、まるで夢のようだった。


「どうして私?」

カナは静かに尋ねた。シンゴはいつもの冷静な表情を崩さずに答えた。「君なら、他の子に変な期待を持たせずに済むからさ。君には俺に興味がないって知ってるから、楽なんだよ。」


カナは複雑な気持ちを抱えながらも、「わかった」と頷いた。彼の言葉には少し傷ついたが、それ以上に彼と過ごす時間が増えることに、ほんの少しの期待が胸に生まれていた。


こうして、二人の「嘘の恋人契約」は始まった。


学校では、二人が付き合っているという噂がすぐに広がった。シンゴはカナの肩に軽く手を置きながら、冷静な態度を崩さずに周囲と接していた。カナもまた、彼の隣にいることに戸惑いながらも、心の奥で嬉しさを感じていた。


ある日、放課後の帰り道。二人きりの時間が増えるたびに、カナは彼の一言一言に心を揺さぶられていた。シンゴがカナをじっと見つめながら、「お前といると、意外と気楽だな」と言った時、彼の本当の気持ちが何なのか、カナには全く見当がつかなかった。


しかし、シンゴの些細な言動や、ふとした瞬間に見せる笑顔は、カナの心をさらに引き寄せていく。カナは次第に自分の気持ちが彼に向かっていることに気づき始めた。それでも、「これはただの契約」と自分に言い聞かせていた。


文化祭が近づくと、二人はペアでの準備作業が増えた。シンゴの誕生日も間近で、カナは特別なプレゼントを用意することにした。彼の好きな音楽を集めたプレイリストを、手作りのケースに入れて渡そうと決めたのだ。


その日、放課後に二人きりで教室に残ったカナは、震える手でプレゼントをシンゴに差し出した。彼は驚いたようにそれを受け取り、しばらく無言でケースを見つめていた。


「なんでこんなに俺のことを知ってるんだ?」

シンゴの声はいつもより少しだけ低く響いた。カナは胸が高鳴るのを感じながら、彼の瞳を見つめた。「ただ…シンゴ君を喜ばせたかっただけ。」


シンゴは一瞬、何か言おうと口を開きかけたが、そのままプレイリストをそっとケースに戻した。「ありがとう」とだけ言い、その場を立ち去った。カナはその背中を見送りながら、自分の気持ちがどうにも抑えきれないことに気づく。


嘘の契約が終わる日が近づく。カナは胸の内が苦しくてたまらなかった。シンゴとの時間が終わり、元の関係に戻るのが怖い。彼の気持ちは一度も明かされなかったが、それでもカナは彼が自分のことをどう思っているのか、知りたい気持ちでいっぱいだった。


放課後の教室。カナは勇気を出して、シンゴに「この契約、もう終わりにしよう」と提案した。シンゴは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに無表情に戻り、カナをじっと見つめた。


「そうだな…でも、俺たちの関係が嘘じゃないと思えたのは、お前のおかげだ。」

シンゴの声はいつもより少しだけ優しく感じられた。カナは涙を堪えながら、「私も嘘じゃないって思いたかった」と呟いた。シンゴはそれ以上何も言わずに、カナをそっと抱きしめた。


その瞬間、カナは全てが報われた気がした。シンゴの本当の気持ちはわからないままだったが、それでも二人が一緒にいられること、それがカナにとっては一番大切だった。


その後も二人の関係は続いた。嘘から始まった恋は、本物へと変わっていったが、シンゴの本心は最後まで明かされることはなかった。


それでも、放課後の静かな教室で、シンゴはカナの耳元で、そっと囁いた。




「…好きだよ、カナ。」

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