第6話 城は苦手
城は前世の頃から苦手だったなと、記憶を完全に取り戻したからこそ分かる。なんで嫌いだったかが分かった。
国民を守らない国王に前世ぶち当たって、奔走したからだ。
国が亡くなってしまったら人々は生きられなくなるし、逆に国がないと人も生きられない。持ちつ持たれつなのに、どうして人は自分の利益のことだけ考えてるの……と、違ういまの人生は聖女だからそんな黒い気持ちを抱いていてはいけない。
ハロルドが町のために動いているのなら大丈夫だろう。ブラウンの言葉が信用できないから、後で連絡を取っておこう。
例えばフィーギル王国がダメになるときは、私は王族の誰かの後ろ盾になり最悪は防ごうと思う。そのために知識と力があるのだと思っているから。
呼ばれた場所は王との閲覧所で、騎士が私の姿を見るとお辞儀をして通してくれた。
正式な召集かと思いきや、閲覧の間には王とブラウンと近衛騎士が二名ほどしかいなかった。
「呼び立ててしまってすまない」
五人の子どもがいるようには見えない現国王は確かまだ四十代だったはず。王太子のときに現在の妃を娶り、直ぐに第一子を授かった。前王の急病による急死で国王になったが、とてもいい政治をしていると思った。長く生きているハロルドは現王が不安で仕方なかったときに夜な夜な枕元に現れて助言をしていたと言っていたから、思っていたよりも面倒見のいい奴に育ったのかもしれない。
半面、そこまでするのであれば賢者であることを伝えるべきではないかとも思ってしまう。
「王、ご機嫌麗しゅうございます」
前世の記憶を取り戻す前と同じ動きができているのか不安になってしまう。ブラウンも明らかに年齢に似合わないくらいに偉そうな雰囲気で、ふんぞり返っている。
国王は自分の子どもの雰囲気が変わったことに気が付いているのかな。悪魔に憑依されたとかではないから、性質が悪い気がしてしまう。本人で無くなったわけではないから教えてあげるべきかも、悩んでしまう。
ブラウンは王がいるからか、何も言いださないが時々向きを変えて剣を見せつけて来ている気がする。
「聖女殿の住んでいる教会の近くの町も襲われたと、ブラウンから報告を受けている。それなのに直ぐに呼び立ててくれて申し訳ない」
「いえ、大丈夫です。神父様がいてくださっているので」
それは嘘じゃない。ハロルドなら大丈夫。心配なのはブラウンの動きのほうだ。
王は目元を緩めて笑った。その笑顔はブラウンに似ているので、親子なんだなって感じてしまった。王は私とブラウンとを見比べてから、ふうっと息を吐いた。
「ブラウンの腰にあるのは勇者の剣なんだ。昨日封印を解いたんだ。封印が解かれたからか、魔王の魔力を城にいる魔術師たちが感知してな。魔物の動きも急に活発になって、騎士団には至急被害地に行く準備をしてもらっていて、だな」
「父上、言いにくいのであれば僕が続きを言います」
「いや、これも王の務めだ」
王が咳払いをし、真っすぐ私のことを見てくる。
「勇者の剣を手にした者が現れ、同時に魔王の封印が解かれた場合聖女と共に魔王退治に行くようにと、予言が降りて来たんだ。十分な人数を集めることができないが、二人で魔王退治に行ってくれるか?」
「まだ、魔王が直接悪さをしている話が出て来たわけではないのですよね?」
王の言葉を聞いて、私も神経を研ぎ澄ませたのだが、魔物の動きが急に活発になっている。人との共存を求めている魔王が人々を襲うように指示を出すとは考えたくない。
王が右手を差し出しその手のひらの上に映像が映し出される。
「魔王は人間に直接手を下さないと聞いている。もし聖女殿が拒否するのであればブラウン一人で行ってもらうしか、無いんだ」
「父上、僕が偶然にも勇者の剣を抜いてしまいました。だからその責務は果たしたいと思っています」
「そうか、力になれない父親ですまない」
なんの寸劇を見せられているのかな、って考えちゃったけどブラウンの思惑って一体何なんだろう。前世からの終着を考えるなら魔王のことは抜きにして私を権力をかざして捕まえてしまえばいい話のような気がする。
仮にも魔族の王様を務めている者の力を侮ってはいけない。前世の経験もあるから馬鹿な真似はしないと思うけど。
「国王様、ご子息を戦場に向かわすのが心苦しいのであれば、私一人で魔王退治に向かいますので、国民を守ることに全力を尽くしてください」
むしろブラウンと二人きりになる方が苦痛だ。転移魔法が使えるから、前に魔王が住んでいた場所と変っていなければ直ぐにでも行って事実確認をしてきたいところだ。
「おおう、聖女殿行ってくれるか!!」
嬉しそうに王座から立ち上がる国王。断られると思っていたのかな。大賢者のときは魔法の研究もしたかったからどこの国にも属していなかった。国同士のパワーバランスを崩しかねないからだ。聖女としてフィーギル王国に仕えているから、王命は絶対だ。逃げるつもりはない。
私はその場に礼を取る。できれば一人で行きたかったけど仕方ない。クロウとブラウンが顔を合わせないようにしたいから、どうにかして私が先にクロウに会わないと。
「私はフィーギル王国に仕える聖女でございます。この身が果てるまで国に尽くすつもりでおります」
いや、もしかしたらこの身尽きるまで尽くしたく無くなるかもしれないな、ブラウンがいる限り。
聖女らしからぬ考えが巡るのは、昔の私の自由奔放だった性格が出ているのかもしれない。
国王だけ、はとても申し訳なさそうに私にお辞儀をした。ブラウンは満足そうに口の端を上げていた。
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