第5話 第二王子への違和感

いつの間にか城に行くための馬車が二台用意されており、私はブラウンとは別々の馬車に乗り込んだ。ブラウンの方は一緒の馬車に乗りたかったみたいだが、迎えに来た騎士たちに止められていた。

 私は考え事がしたいから、城に着くまでそっとしておいて欲しいとお願いをした。騎士たちは私が魔王退治に行くことに対して、不安に感じていると思ってくれたみたいだ。聖女として世界中を旅してきたが、今回のような苦難が待ち構えていることは、今まで無かった。                                   

 私は聖女になるべく選ばれた。聖魔法の魔力が多いだけではなくて、精霊にも好かれている。前世での経験を生かして生きているから、彼らとの接し方も心得ている。何より私の魔力は精霊だけでなく、人間以外のものに好かれやすいみたいだ。

そしてそれとは別に神様からもらったギフト「絶対強者を産み落とす聖母」というなんじゃわからない能力も一緒に付加されているの。

「普通に恋愛して子供が欲しかっただけなんだけど、もしかしてそれは甘い考えだったのかな」

 前世では叶わなかった夢は、最愛の人と添い遂げること。生まれて直ぐに自我が芽生えて世界に対して違和感を覚えていたけど、ハロルドは私に愛情を注いで育ててくれたから嬉しかった。

 七つのときに判明したギフト。この力がある限り今世でも普通の恋愛はできないと諦めている。

「魔王の動きはここ数百年落ち着いているって教わったけど、そろそろ魔界との封印が解ける時期にもあたるのよねぇ……そう言えば。対策しておかないといけないし、私のメロメロになる魔法が解けたから、魔王は私に意趣返ししたいのかな?」

 勘違いじゃなかったら前世、両想いだったと思うんだけど。やっぱり人間に呪いをかけられたのは彼のプライドを傷つけることになってしまったのかな。

城からの要請はきっと魔王を倒しに行くというもの。ブラウンの前世が勇者だったとなったら更にややこしい事態だと思う。第二王子以外にも王位継承者はいるけど、彼を魔王退治に行かせようとするほど、国王は非道な人間ではなかった気がする。ブラウンが勇者の剣を持ち出していることを知っているのなら、一緒に行けと言われる可能性もあるし。

 自分のことを忘れて欲しくなくて、魔王に爪痕を残したかった。

 ただの私の終着なんだけど、その想いは断ち切らないといけない。

 記憶が戻って来て、彼に対する感情が前世を引きずっているだけのような気がしてしょうがない。好きだった相手、共に時間を過ごしたかったけど、種族の壁が邪魔をしていた。

 私の大切な恋心まで晒したくないの。

 聖女で、前世の記憶がある厄介者かもしれないけど、私も一人の乙女だから。

「いっそ、魔王に捕まったことにして姿を消すのが一番かしら」

 生き残ったとしても勇者に執着されてしまっては困る。子を産んでしまえば私のギフトがバレてしまう。世界情勢は安定しているが、子がきっかけで戦争を起こしたくない。

 クロウは自由奔放な魔王だった。魔王城を空けて人間界に遊びに来ていて、偶然私に出会い、恋に落ちた。

 人と魔族が共に手を取って生きられる場所を望んでいたクロウ。だから私も協力したかったけど、それを勇者が許さなかった。悪を倒すものだと言われてきた勇者は魔力を暴走させ、竜巻を起こした。それを止めるためにクロウは全力になった。

 世界を半壊させる恐れがあるほど暴走したと後世に残されていたが、それをしたのは勇者だ。人間を守ってくれたのは魔王であるクロウだ。

 その真実を知っている人は私だけ。歴史は都合のよいものに改編され、魔王が悪で勇者が正義となっていた。確かに魔物は基本的に人間の負の感情を糧にしている。それが原因なのは知っているけど、そのせいで愛した人の立場が悪くなっているのは納得がいかない。

「ううう。城に行くのは嫌だわ」

話し合いで解決できたらいいんだけど、勇者であるブラウンが何を目的にしているのか分からない。私に執着していた前世。魔王に邪魔されたというか、告白はしてないけど私と魔王は両想いだったんだ。

 ……両想いで良かったんだよね??違うのにメロメロの呪いをかけたのだとしたら私はどれだけ重い女なのよ。

「やばい、魔王に再会したくないかもしれない」

 恨まれているかもしれないと感じたら、恥ずかしくなってきてしまった。

 ガタン、と大きな音がして馬車が止まる。

「聖女様城に到着いたしました」

 騎士の声がする。同時に馬車の扉が開かれる。

「ありがとう」

 先に到着しているブラウンの姿は見えず、私はこれからのことを不安に感じながら、城の中に進んだ。

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