第3話

真一は、かつて人間だったであろう異形の者たちが閉じ込められた檻の前で立ちすくんでいた。彼らの苦しそうな呻き声が静寂を切り裂き、彼の頭の中で何度もこだました。どうしてこんなことが起きているのか、なぜ自分がここにいるのか、その理由を考える余裕もない。ただ、この恐ろしい場所から逃げ出したいという一心だった。


だが、その時、真一の背後で何かが動く音が聞こえた。振り返ると、そこにはあの女性の姿があった。彼女は、真っ白な服を身にまとい、冷たい笑みを浮かべていた。その顔には不自然なまでの無表情が張り付いており、まるで人形のようだった。


「どうして…こんなことを…」


真一は、震える声で彼女に問いかけた。だが、彼女は答えることなく、ゆっくりと近づいてくる。その目には何の感情も宿っておらず、ただ彼を見つめているだけだった。恐怖と絶望が一度に押し寄せ、真一は後ずさることしかできなかった。


「あなたは、もう逃れられないわ。ここにいる者たちと同じようにね」


彼女は静かにそう言い放つと、真一の腕を冷たく掴んだ。触れた瞬間、彼の体に鋭い痛みが走り、全身が硬直した。まるで電流が流れ込んだかのような感覚に、彼は悲鳴を上げようとしたが、声が出ない。その間にも、女性は何事もなかったかのように淡々と話し続けた。


「ここは、罪人たちのための場所。この世に背を向けた者たちが、永遠に苦しむための部屋よ。そして、あなたもその一員になるの」


真一は必死に抵抗しようとしたが、体はまるで自分のものではないかのように動かない。彼女の手の中で、何かが彼の体に侵入していく感覚があり、彼は恐怖で目を見開いた。体内を這うような冷たい感覚が、彼の意識を少しずつ奪い取っていく。


「やめてくれ…助けてくれ…」


心の中で何度も叫んだが、彼の声はもう自分自身にすら届かない。視界がぼやけ、目の前の世界が歪んでいく。彼女の冷たい手の感触が、彼を深い闇の底へと引きずり込んでいく。


そして、最後の瞬間、彼は目の前に広がる景色を見た。それは、自分が見てきたすべての悪夢が一つに融合したような光景だった。血まみれの床、歪んだ壁、苦しむ者たちの叫び声が耳を裂くように響く。すべてが狂った世界の中で、彼の意識は闇に飲み込まれていった。


目を覚ましたとき、真一は再び独房の中にいた。周りの光景は何一つ変わっておらず、まるで悪夢が再び始まったかのようだった。冷たい床、湿った空気、そして錆びついた血の臭いが鼻を突く。だが、彼はもう逃げることができなかった。


自分の体がどんどん重くなり、動けなくなっていく。手足が鉛のように重く、頭の中が霞んでいく感覚が広がる。やがて、彼は気づいた。この部屋にいる者たちは、皆同じ運命を辿っていることに。


独房の壁に書かれた無数の文字、刻まれた名前、それらはすべてここに囚われた者たちの痕跡だった。そして、彼もまた、その一員となり果てたのだ。これから何が起きるのか、もう考えることすらできなかった。


最後に見た光景は、独房の壁に浮かび上がる自分の影だった。影は次第に歪み、まるで異形の何かに変わっていく。そして、その影が真一を飲み込んでいく瞬間、彼の意識は完全に途絶えた。


そして、独房には静寂が戻った。永遠に終わらない悪夢の中で、新たな犠牲者が囚われ続ける――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死独房 白雪れもん @tokiwa7799yanwenri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る