第4章 誇りをかけて!!

40話 動き出す事態


 亜人国家プライドキングダムは、いわば天然の要塞だ。

 この大陸はサバンナ的自然環境だが、ここ周辺だけは岩山である。というより数少ない岩山に元からあった天然の洞窟を拡張したりなんだりで生活しやすいようにしたのがこの国であるとすら言える。

 それが余計にこの国を攻めにくくしているのだ。人類国家と違い、国土は狭い。各地に広がる領地などはないからだ。だが逆に言えば、非常に守りやすい国であるとも言える。ここが墜ちれば終わりだが、ここさえ墜ちなければ問題ない。だから戦争をする時は、攻守共に一か所に集まることになる。複数箇所で同時に戦が展開するということにはならないのである。

 ガルーダ警備隊隊長の兄さんから貰った街の地図によると、グラン王が住む王宮は、この街の中央にあるこの大陸で一番背が高い切り立った岩山の内部にあるらしい。そう、今俺達がいるここは城下街なのだ。一般人が住むエリアで、まだ洞窟の内部ではない。ちなみに王が住む岩山だから、王宮の名前はキングス・ロックだそうだ。


「この感じ、なーんか既視感あるなと思ったらダンジョンだわ。もしかして初代の建国王って……コア砕いてダンジョンマスターぶっ殺して、抜け殻になったダンジョンそのまま奪い取ったのかもな」

「あぁ、それあり得るのぅ。気ぃ付けや?」

「分かってんよ」


 そんなことを話しながら、皆でかたまって街の中を歩く。魂の繋がりパスがあるから互いの居場所は分かる。迷子の危険性は欠片もない。

 それでも、わざわざバラバラになって動く理由はないからな。


 街の中には、それはそれは数多くの種族が入り混じっていた。

 会ったことのある種族だけで4種族。ゴブリン、コボルト、オーク、有翼族ハーピィが確認出来た。

 まだ会ったことのない種族で言えば、二足歩行の蛙、二足歩行の虎、二足歩行の豹、二足歩行の鹿、二足歩行のサイ、二足歩行の牛、それぞれが少し人間っぽくなった者達、下半身が蜘蛛で上半身が人間の女っぽい種族などが居た。あと前にクロが言っていた牛人ミノタウロスも確認出来た。

 以前聞いた情報通り、彼女たちはこの街の住人としては異質に映るほど圧倒的に人間に近い。人間との相違点は耳と尻尾。それから大きな体躯。4つの乳房だ。

 人間は人類として認めなかったらしいが、やはり俺には普通にドエロイ姉ちゃんにしか見えない。あの爆乳は凶器だろ。しかも14歳超えるとミルク出せちゃうんでしょ? ちょっとエッチすぎじゃない? 何処のエロ漫画の住人だって感じなんだが。まぁそれはともかく、パッと見えるだけでそれくらい多くの種族が入り混じっていた。

 

「しっかし……ドワーフらしき奴の姿が見えねぇな。なんでだ?」


 俺がふとそんなことを呟くと、


「そりゃあドワーフだからな!! 昼間は鍛冶場に引きこもってるさ。夜になりゃ酒場に来るよ。あいつらは男も女も揃いも揃って酒豪だからな! それに加えて健啖家だぞ~? あんなちっちぇえ身体の何処に入んだよって言いたくなるくらいな!」


 ちょうどすれ違った耳の大きな二足歩行の狐が陽気に話しかけてきた。この耳の感じは……フェネックに似てるな。 


「おぉ! わざわざどうもすみません。ありがとうございます。俺は」

「あぁ構わん構わん! 知ってるよ。噂の新しい憤怒の魔王サタンとその一行だろ? 魔王にしちゃ変わってるよな。あんた! なんでも眷属を家族として扱ってるって聞いたぜ? それに強いらしいな! 嫁さんも2人居るんだろ!? どういう気分なんだ!? なぁなぁ!!」


 親切に教えてくれた二足歩行の狐さんに自己紹介しようとすると、それは彼自身に遮られた。それだけでなく、捲し立てるように色々と質問された。

 若干その勢いに押されながらも、教えてくれた恩もあるってことで一つ一つ丁寧に答える。


「2人とも、俺には勿体ないくらいの出来た妻ですよ。心底幸せですね。まぁそれなりに強い自負はありますが、この国で何処まで通用するかは分かりませんね。眷属の扱い方に関しては……個人の自由ということで。俺はそうしたい。それだけです」

「ほ~、魔王のクセに優しいんだな! 魔王になんか覚醒するやつは碌でもねぇと思ってたけど、あんたは違うようだ。先代の憤怒の魔王サタンとは全然違うな! あいつは自分のことで怒ってたけど、あんたは他人の為に……いや、家族の為に、かな? 怒っている。そういうの、俺は好きだぜ!」

「はは、ありがとうございます」


 ふむ……先代の憤怒の魔王サタンをあいつ、と呼ぶか。この男、若そうに思えるがどうやら200歳を超えているようだな。本人と知己でない限りあいつなどと呼ぶとは思えない。それも相手が魔王なら尚更だ。

 にしても、先代はそういう奴だったのか。シンシア的にはどうなのだろう? やはり、一族が仕えていた先代のことを知りたいのだろうか。そう思いシンシアをさりげなく見てみると、何とも思って無さそうな顔だった。

 自分の一族が仕えていた先代のことが気にならないのだろうか? 何やら自分勝手な奴っぽそうだけど。なんて考えていると、


《一族は確かに先代様を信仰していましたが、私の主はあくまで創哉様だけですから。関係ありません》


 柔らかく微笑むシンシアから思念話が飛んできた。

 それに同じく思念話でそっかと返す。


「あっ、と……忘れてた。あんた迷宮主ダンジョンマスターなんだよな? なんで外出するんだ? 怖くねぇの?」

「確かに怖いですが……信頼出来る家族が留守を守っていますし、迷宮主ダンジョンマスターだからこそ、外に出なくては」

「ほ~ん。でも迷宮主ダンジョンマスターだからこそ外に出なきゃってのは分かんねぇな。普通は引きこもってテメェの心臓コアの守りに徹するだろ」

「はは、その為にも外に出る必要があるんですよ。生まれたての迷宮主ダンジョンマスターは手下となる魔物を召喚できませんし、罠も何も作れません。なので、とりあえず敵を殴り殺してDPを獲得しないと、何も出来ないんですよ」


 迷宮主ダンジョンマスターの詳しい内情を知らなきゃ、そりゃそう思うよなぁと俺が苦笑しながら説明する。

 その瞬間彼は顔色を変え、妙に真剣な顔つきになる。


「……本気で言ってるのか? あんた、相当可笑しいぜ」


 俗に言うマジトーン。先程までのおちゃらけたような雰囲気はなりを潜め、ピリついた雰囲気を醸し出す。


「……どういうことでしょう?」


 訳が分からず、俺はそう聞いた。

 すると彼は、


「普通の迷宮主ダンジョンマスターってのは、そんなんじゃねぇ。最初から低位ランクの魔物なら好きに召喚出来るし、罠だってつくり放題だ。それが迷宮主ダンジョンマスターってもんだ。これでも俺は冒険者でな。5つは迷宮ダンジョンを攻略してる迷宮走破者なんだ。よく知ってるんだよ」


 そう言った。

 親切な一般人と思っていた彼が俺の天敵だってことも意外だったが……何よりも、訳が分からない。

 俺のダンジョンに関する知識はコアに刷り込まれた絶対的情報だ。それに実際俺は魔物を好きに召喚出来なかったしDP不足で罠も買えなかった。

 だと言うのに、普通の迷宮主ダンジョンマスターはそうじゃないだと? 一体何を言っているんだこいつは。妙に気持ちが悪い。こいつの言葉から、一笑に伏すことが出来ない信憑性しんぴょうせいを感じさせられている。 


「お前……何者だ」

「俺は、狐人フォクスマンのジョアーノ・ダンブルス。亜人冒険者ギルド所属、ランクオリハルコン! 人呼んで義賊ホークアイとは俺のことよ!! ぺらぺらと喋ってくれてありがとよ! おかげで、ちったぁ仕事が楽になりそうだ。んじゃおさらば!」


 そう言うとジョアーノは、ドロンと消えた。


「くそっ!!」

「……創哉はん。あいつ、妖術が通じひんかった。なんかしらの加護か道具か、持っとるようやな」

迷宮ダンジョンを5つも攻略してるらしいし、耐性無視を無効化出来るアイテムか装備を持ってても不思議じゃないわ。結構マズいことになったかもよ。どうするの? マスター。戻るなら、それでも良いよ」


 素早く、思考を巡らせる。

 妖術が通じないということは相当の守りだ。しかも、オリハルコンと言っていた。それは冒険者ランクの最高峰だ。つまり相当に強い。

 だが……。


「奴は、義賊らしいな?」

「えっ……うん。そう言ってたよ?」


 奏が頷く。

 ならば、方針は決まった。


「決めた。無視する。奴からは小悪党特有のみみっちさ、卑しさのようなものを感じなかった。それに俺達の関係のことを聞いた時、本気で好ましいと思っていたように感じた。俺は自分の直感を信じる。それに……万一俺が間違っていたとしても、家には子供たちがいる。あいつらは実力者揃いだ。そう簡単に負けはしない」


 不安じゃないと言えば嘘になる。だがそれでも、俺は彼を好ましいと思った。話していて不愉快じゃなかった。きっと、悪い方向には転ばない筈だ。




◇◇◇




「釣れませんでしたね。グラン王」


 玉座にどっかりと座る影の横に並ぶもう一つの影が、巨大な水晶玉を眺めながら言う。玉座に座る影の名は、グラン・レオーネ。プライドキングダムの王である。


「うむ……どうやら噂通りの人物のようだ。眷属との間に深い絆があるのが分かる。本人の気質も悪くない。家族思いで、強く賢く、計算高さもありつつ、思い切った選択を躊躇なく選べる豪胆さも兼ね備えている。くく、面白い。ジョアーノよ。あの男の言う子供たちとやらの実力を確かめよ。それと奴の謎についても調べてくるのだ」


 グラン王が面白そうに笑い、もう一つの影に命令を下す。

 そのもう一つの影の正体はジョアーノ・ダンブルス。彼は、義賊という立場でありながら王と通じていたのだ。


「と、申しますと……戦に彼らを利用する、という事で御座いますか?」


 片膝をついて跪いたジョアーノが問いかける。


「うむ、魔法大国の変態女が勇者を召喚したらしいからな。あの女のことだ。勇者の鍛錬のための素材と称して、我が戦士たちを攫おうとするだろう。奴らが使えそうなら、丁重にもてなしあの女との戦いに利用する。使えないのなら、そのまま消せジョアーノ。……お前なら大丈夫だとは思うが、引き際を間違えるなよ? あの男が実力者揃いと称するのだ。生半可な相手では無かろう」

「はっ! その間、彼らはどうなさいますか? 彼らの実力も測る必要があるでしょう」

「ふっ……。今年で余も、在位300年だ。後は分かるな?」

「あぁ、なるほど。承知しました。では、行って参ります」

「うむ」


 創哉たちのあずかり知らない所で、事態が動こうとしていた。

  


  

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