41話 どうしよう……。
俺の決定に皆も異論はないようで、俺達は宣言通りジョアーノのことを一旦忘れ街の散策に戻っていた。
とりあえず俺達のすべきことは、換金である! これをしなくては何も始まらない。何かの串焼きやら、禍々しい見た目の果物だけどなんか美味そうな匂いのする紫色のフルーツジュースやら、色々と美味そうなものを売っている屋台が立ち並んでたりもするが、この国の通貨がない今の俺達に買うことは出来ない。
観光を楽しむためにも、宿をとる為にも、とりあえずは換金だ! 俺達はガルーダ警備隊隊長の兄さんから貰った街の地図を見ながら換金所へ向かった。
◇◇◇
「鑑定が終わりました。純度の高い鉱石ですね。こちらなら金銀銅、全部合わせて580ジェセルに換金できますよ」
俺達は、迷うことなくスムーズに換金所に辿り着いた。隊長の兄さんは地図を大雑把と言っていたが、そんなことはなかった。実際に街を練り歩いてみて思ったことだが、かなり正確に描かれている。どうやら彼は、実に丁寧な仕事をするらしい。正直欲しいと思ってしまうくらいに。まぁ誇り高い彼らガルーダが、今の主に不満がある訳でもないのに主替えをする訳はないので、考えるだけ意味のないことなのだが。
「580ジェセル……? 幾らなんでもちょっと安すぎるんじゃないの? 足元見てるんじゃないでしょうね」
セーラが眉間に皺を寄せて、久しぶりに聞くマジトーンで換金所の店員につっかかる。だが、それも当然だ。
俺達はファルを溶かしてインゴットに変えた金を3㎏、銀を5㎏、銅を10㎏持ち込んでいる。当然まだ地球ほど開発は進んでいないため価格は高騰していないが、それでも安すぎる。クロムウェルの城塞を襲撃する前、街を散策している時に知ったことだが……人類圏では現在、金1gで200ファルに換金できる。つまり今のように金塊を3㎏も持ち込めば、60万ファルになる。
それに対して580ジェセルというのは、5800ファル程度の価値しかない。そして5800ファルと言ったら、クロムウェル領では身分証の新規発行(5000ファル)をして3回ほど飯を食ったら尽きる程度の価値だ。このプライドキングダムでも、先程見かけた屋台に売ってた串焼きの最低購入数(いわば小盛)である5本あたりで4ジェセル。この国のボロ宿でも高級宿でもない、ごく普通の大衆向けの宿が一泊200ジェセル。つまり……580ジェセルは、普通の宿で2泊して串焼きを100本買ったらそれで尽きてしまう程度の価値ということだ。
しかし……。
「やめろ、セーラ。疑いたくなる気持ちも分かるが、彼は真面目で嘘を嫌うウルラ族だ。客の足元を見てレートを変えるなどあり得ない。そうでしょう?」
そう。店員さんは、ウルラ族。二足歩行のフクロウだ。隊長の兄さんが
そして彼らウルラ族の特徴は、良く言えば真面目で嘘を嫌う! だが、悪く言えば頭でっかちなのだ。しかも、この店員さんは結構な歳のようだ。他の店員も当然のようにウルラ族だが、彼らよりも顔にしわが多い。恐らく、予め決められたマニュアル通りにしか動かない、否、動けない筈。
それが彼らウルラ族だからな。若者なら革新派が居たりもするかもだが、人間でさえ老いてくると頭が固くなるのに、ただでさえ頭でっかちなウルラ族が老いれば、余計にその傾向は強まる筈。
まぁ他人の金を取り扱う金融系の仕事において、彼らほど信用出来る種族はないのだが。横領なんて考えは、出て来ないのである。
「その通りです。我々は決してお客様の身分で態度を変えたりは致しません」
「えぇ、それは信用しています。うちの者が失礼をしました。しかし、だからこそお聞きしたい。何故、それほどに安くなってしまうのですか?」
そう。セーラも、結局はこれが言いたいのだ。俺も当然ながら疑問に思っている。彼がウルラ族でなければ、セーラより先に俺がつっかかっていた。
「我が国の中枢であるキングス・ロックの地下には、ドワーフの鍛冶工房があり、そこを中心として国土の外へ向かって採掘場が広がっています」
そこで、俺は全てを察した。
しまった……。そりゃあそうだ。ここはドワーフが住んでいるような土地なのだから。自前で鉱山を所有してて当然だ。この大陸についた時に見かけたメタリックなサイ。恐らくあの魔物は、鉱石を食べて育ったのだろう。何故身体が金属化しているのかと思っていたが、今理解した。
よし、この際だ。色々と聞き出してしまおう。あくまでもただの雑談ですよという風に振舞えば、警戒はしない筈。
こういうタイプのいわゆる契約にうるさい奴ってのは、自分の仕事に関する守秘義務なんかは絶対に守るが、それ以外のことに関しては大抵口が軽いもんだ。
俺の親父がそうだった。自分の仕事の秘密は聞いたって全然喋らないくせに、俺や紗耶香、母さんのことなんかは何でもかんでもブログに載せて、一時期個人情報もへったくれもなかった。知らない人からいきなり『あら、ちょっと! 創哉くんと紗耶香ちゃんでしょ~! 貴方達のお父さんのブログで見たわよ~!』なんて話しかけられることがよくあった。
あの時は普段温厚な母さんが珍しくブチぎれて、そんなの何処にあったんだよって感じの木刀を取り出してやたらとキレイな太刀筋で父さんをボコボコにしてたっけな。俺と紗耶香が運動部に入ってた訳でもないのにやたら昔から運動が得意だったのは母さんの血だったのかと、2人して納得したもんだ。
「そういうことですか……。しかし、よく資源が尽きないものですね。ドワーフが年がら年中、武器防具を量産しているというのに」
「あぁそのことですか。ドワーフ族は、大地の神の加護を受けていますからね。ドワーフ族が住処と定めた場所の周辺地下には鉱石が出来やすくなるんですよ」
「ほぅほぅ、ドワーフ族にはそのような能力が! それは知りませんでした。もし宜しければ、もっとご教示してはいただけませんか? 何分、私は世間知らずの若輩者ですから。ちょうど貴方は物知りのようですしね」
「おお、良いでしょう!! ふぉっふぉっふぉ! お客様は元人間の若者とは思えない、殊勝な子のようだ! 魔王と言えど、王となるだけはあるようですな!」
よし、良い流れだ。やはり、こういった
「いえいえ、そのようなことは」
「そういった所も感心感心。では、説明してさしあげましょう! ドワーフのその能力を買い、まだ亜人同盟の主だった頃の建国王はドワーフ族と契約を交わしたのですよ。『我々亜人同盟が貴殿らの労働力となって、代わりに鉱石を採掘しよう。だから我々に貴殿らの鍛える武器防具を譲ってはくれまいか?』と。それを当時のドワーフ族族長は了承し、ドワーフ族も亜人同盟に加わった。そして、その頃からこの地の地下に住んでいたドワーフ族にとって邪魔だった存在が居ました。今のキングス・ロックを支配していた
「ほぅ、そんなことが!」
やはりな。思った通り、キングス・ロックは元
「えぇ。勿論、我が国はお客様に手出しは致しません。手を出す理由も、ありませんからな。ご安心ください」
「ははは、無論です。最初からそのような心配はしておりませんとも」
まぁ、早速喧嘩売ってきたどっかの
「それでしたら、良かった。とにかく、それから亜人同盟は協力してキングス・ロックにあった
「ははは、そうなのですか」
200歳以下の若者、ね。やはりこのウルラ族の店員。相当な歳だ。1000歳を超えていると見ても良いかもしれん。少なくとも600歳は超えているだろう。
「おっと、お喋りが過ぎた。失礼しました。つい調子に乗ってしまい。まぁ、という訳なのですよ。申し訳ありませんねぇお客様」
「いえいえ、構いません。そういえば、この国は客人など居ないと聞きましたが、何故換金所があるのでしょうか? 為替など、しないでしょう?」
「おや、そのことですか。単に人間を殺して奪った金銭を交換してくれと言ってくる者が昔から相当数居るので、それで建てられたのですよ。ファルと言いましたか。ふん! 我々を亜人と見下し、このような辺境の地に追いやった人類など滅べばいい! 奴らの信仰する女神ファルダニアなどクソ喰らえですよ!」
どうやらファルのままでも交換出来たらしい。まぁ、結果オーライだ。
おかげで色々と聞き出せたし、それに俺と奏、シンシアは見た目がまるっきり人間だからな。入店した時も、俺らが放つ瘴気に気付いて態度を変えてくれたが、一瞬マジで殺されるかと思った。見た目人間の俺らがファルを交換してくれなんて言ったらどうなるか……。うん。止めよ、考えるの。
「はは、そういえばファルは女神ファルダニアが由来ですが、ジェセルはどのような由来なのですか?」
「同じようなものです。我らが信仰している冥界の神、犬の顔を持つ死者の魂を導く番人。ネブ=タ=ジェセル様が由来ですよ。かの神は秤によって死者の罪の重さを測りますからな。ほら、裏に秤が彫られているでしょう?」
「あっ、ホントだ!」
やべ! 普通に気付いてなかった。表面の獅子の顔しか見てなかった。
なるほどねぇ、そういうことか。犬の顔を持ってて……秤で死者の罪を測って、更に冥界の神……。あっ、アヌビスだ! まぁ似て非なる神って奴だけど、なんか懐かしいな。まぁ俺らが上陸した場所からここまではサバンナ的な自然環境だったけど、もうちょっと奥地まで行ったら砂漠とかもあったりするのかもな。サバンナと砂漠って、結構似た環境だし。
「それじゃあ、そろそろ行きます。ご教示いただき、ありがとうございました。店員さん」
「いえいえ! こちらこそお力になれず」
「はは、お気になさらず。まぁどうにかしますよ」
情報という収穫はあった。かなり美味しい情報だ。損をしたとは思っていない。むしろお釣りがくるくらいだろう。
けど当初の目的である金は心もとない。どうしよう……。もうちょっと欲しい所だけど。
そんなことを考えながら、店員さん達に見送られながら俺達は換金所を後にするのだった。
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