39話 到着! 亜人国家

「……あんま美味くはないのぅ」

「丸焼きにしただけだしね……。ちょっと、いや、かなり獣臭い……」

「な。大味だし。もうちょっとちゃんと調理すりゃあどうにか出来るかもしれないけど、ここじゃ無理だな。領地の外じゃDPショップは使えねぇ。悪いな皆」

「そんな! 父上は悪くありません! お気になさらないでください!」

「そ、そうですよ! 今は出先なんですし、たまにはこういうことだってありますよ! 仕方ないです!」

「はは、ありがとな」


 マンモスモドキとの戦いは、すぐに片付いた。別にマンモスモドキが弱かった訳ではない。単に、俺らの方が強かったうえに数の利もあった。それだけのことだ。

 どうやって倒したか? 実に単純で負けようがない戦法だ。


 まず奏が歌魔法の『眠りへの誘いスリープテンプテーション』でマンモスモドキを眠らせる。

 その後俺が魔力の刃で、クロが刀で全ての足を切断。当然マンモスモドキは痛みによって起きるが、もう足はないので動けない。

 そしてラストはナディ。吸血鬼としての能力『血液操作』によって、マンモスモドキの血液を一滴も残さず切断面から一瞬で抜き取る。

 以上3工程で、戦いは終わったのである。


 よって血抜きは完璧だ。

 しかし、それでも臭い。まぁ、獣臭い上に血生臭い最悪のパターンを避けられただけ良しとする他ないか……。


 そんなことを考えていると、シュゴー! とまるで戦闘機が飛んでいる時のような轟音が響く。


「たっだいま~! えっ、なになに? なんか食べてんの!? ずっる~い!」


 帰って来て早々、セーラはハイテンションである。


「おかえり、結構かかったな。それと……こいつは失敗だ。美味くねぇ」

「あぁ、そうなの? ふぅん。じゃあいいや。途中でガルーダ達に襲われちゃってさぁ~。別に大して強くはなかったんだけど、おかげで時間食っちった」

「ガルーダ?」

「うん、人型の鳥の亜人。これからお邪魔する国の人を殺す訳にも行かないでしょ? 反撃せずに適当に遊んであげてたら落ち着いてくれたから、穏便に話つけてきたよ。国に着いたらガルーダ警備隊を呼んでくれだってさ」


 え、ナイスムーヴ過ぎる……。

 あの速度で飛べるわりには時間かかってるなって思ったら、そんなことになってたのか……。


「了解。ガルーダ警備隊だな? んじゃ、早速向かうか」

 



◇◇◇




 互いに嫌い合い、人類圏で生活することが出来なくなった亜人たちの楽園。亜人国家プライドキングダム。

 建国はおよそ、3万年前。人類たちが争い合い、様々な国が興っては滅び興っては滅びを繰り返す中、ただ一国だけその存在を保ち続けてきた、最も古くからある王国。

 現王の名は、グラン・レオーネ。378歳。第252代国王であり、初代国王と同じ獅子人ライオノイドだ。

 歴史と文化、そしてその技術を守り、発展させてきた。また、この地を公平に統治する賢王としても名高い。そんなグランだが、彼の本領は知性ではなく武功。並ぶ者なき偉大なる英雄王。彼は、そのように謳われる存在だ。


 そんな英雄王にして賢王の治める地。


 ここは、正しく実力主義社会。血ではなく、その実力を以てして格を決める。故に初代国王の子供であろうと何だろうと、実力が足りぬとあらば即座に地に堕とされ一般人となる。それがこの国の仕組みであった。

 しかし、地に墜ちた後が悲惨か? と言えばそうでもない。本人の気持ちはともかく、あくまで一般人となるだけ。暮らしは保証されているし、一度墜ちた後でも実力をつければ成り上がることが出来る。

 そんな、入れ替わりの激しい国。だがグランはそんな中、王としての地位を300年もの間守り通していた。つまり、300年もの間この国で最も強く賢い存在として在り続けたということである。そしてこれこそが、グランが並ぶ者なき偉大なる英雄王にして賢王と謳われる所以である。

 これは、初代の建国王ですら長い間その地位を守り通すことは出来なかったということでもある。

 それだけ優秀な存在が数多く居る! ということである。故に、最も強いグランが出陣するまでもなく敵対者は塵芥ちりあくたと化す。そんなただでさえ強力な彼らを、更に強力にしているモノがある。

 何か? それこそが、ドワーフの極めて高い金属加工技術で鍛造される、無数の装備品である。

 人より長く生きる亜人。その中でもとりわけドワーフは長命で、神話の時代より生き続けている者も少数ながら存在する。そんなドワーフはエルダーと呼ばれ、彼らが鍛造する武具は伝説武具アーティファクトと呼ばれる。

 これは今の時代では鍛造不可能な武具であり、非常に価値が高い。


 そんな非常に強い国家であるからこそ亜人国家の住人達は、人類圏周辺とは比べるべくもないほどに強力な魔物や動物がそこらをうろついているような、正しく魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする魔境で生きることを余儀なくされても、逞しく日々を生きられるのである。


「とまぁ、こんな所だ。この国について、多少は理解出来たかな? 新しい憤怒の魔王サタンとその一行さん」


 体毛は白くくちばしと瞳の色は黄色。目つきはかなり鋭い。まさに、わしが人型になったような存在であった。

 そんな彼はそう言って自身の対面に6人並んでここ、応接間の椅子に座る創哉たちを見回し説明を終えた。


「あぁ、よく分かったよ。わざわざ説明してくれてありがとな、ガルーダ警備隊隊長の兄さん」

「構わない。俺は今日は非番だったしな。何より、新人たちが言ってたどえらく強い相手ってのがセイレーンの姉さんで、噂の新しい憤怒の魔王サタンの眷属だったとあっちゃ、これくらいはするさ。にしても……本当にこれだけで良かったのか?」

「あぁ、構わない。情報は武器だからな。おかげで、グラン王の人柄を多少は掴めた」

「ほぅ……? 王の人柄の話なんて、ちっともしてない筈だけどな」

「分かるさ。王のことを話す時の誇らしそうな顔、プライドが高く賢い種族であるあんたらガルーダが他人のことでそんな風に成れるってことは、よっぽどの人格者だ。しかも、300年も王であり続けられるってことは、遊び心もあると見た。真面目一辺倒なリーダーじゃ、そう長く持たずに潰れちまうからな。どーよ」


 創哉が自身の考察を語ると、


「……驚いたな。俺の顔だけで、そこまで分かるのか。戦闘能力も相当高く、知力もある。サタンの兄さん、あんた……うちに居たら王にはなれないだろうが、2番手には成れたかもしれないな」


 ガルーダ警備隊隊長は目を見開き最大限に創哉を褒めた。


「そりゃ光栄だな。んじゃ、そろそろおいとまさせてもらうよ。これ、本当に貰っちまって良いのか?」

「勿論だ。あんたらの為に急遽きゅうきょ用意したんだからな。来客なんて基本ないからな。外の地図ならともかく、街の地図なんて必要なかったんだ。大雑把なのは許してくれよ?」

「ははっ! 良いさ。あるだけありがたい。じゃあ、また何処かで」

「あぁ! くれぐれも街の中で暴れないでくれよ? そんなことされたら、俺があんたらを止めなくちゃならなくなる。正直勝てる気しねぇからな。勘弁願いたい」

「あぁ。けど、正当防衛は許してくれるよな? 身内に手ぇ出されて黙って指しゃぶってられる程、俺は大人じゃねぇんだ」

「勿論だ。そういうケースなら、手出しはしない。だが逆に言えば自己責任だ。売られた喧嘩を買った時点で被害者ではないと判断して、俺達は守らない」

「それで良いさ。じゃあな」


 そう言って、創哉一行はガルーダ警備隊の詰所を出るのだった。

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