閑話 セーラのパーフェクトまほーきょおしつ!

「セーラ先生、魔法を……教えてくださいっ!」

「えっ、別に良いけど。いきなりどうしたの? マスター」


 現在俺達は、小島で休憩をしていた。食料調達は当番制にしていて、今回はナディとクロが狩りに行っている。

 そのため俺は、ちょうどいい機会だと思い魔法を教わろうと思っているのだ。

 シンシアや奏と浜辺の浅瀬でぱちゃぱちゃ遊んでいる中、唐突に切り出した俺にセーラは困惑しているようだ。


「いや、お前って如何にも魔法って感じの魔法使ってるじゃん? 奏とリーリエも魔法使うけど、2人の魔法って特殊だから良く分かんなくてさ。お前に教わればなんか掴めるかもって前から思ってたんだよ。頼む!!」


 深く頭を下げて顔の前で手を合わせ、片目でセーラの様子を見る。


「ふ~ん……なるほどねぇ~。おっけ! 教えたげる!」


 するとセーラは胸元で腕を組みながらうんうん頷いたかと思うと、パチンとウィンクしてOKサインをつくってそう言った。


「ホントかっ!?」


 来た! これで勝つる! そう思った俺は、よしっ! と両腕をグッと突き上げガッツポーズ。しかし次の瞬間、


「ホントホント。でも、その代わりさ~、色々落ち着いたらまた女装してくれない?」


 天使は悪魔に姿を変えた。

 イイ笑顔で俺の両肩に手を置き、そう告げてくるセーラ。


「ゔっ……マジ?」

「マジもマジ、大マジ。してくれないなら、教えない。どうする?」


 勝利を確信した笑み。

 ふふ~ん、とイラッと来る笑みを浮かべて俺を見下すセーラ。


「ほほぅ……? そうですかそうですか。まぁ確かに、俺は教わる身ですから? 四の五の言える立場じゃないですけどねぇ。お前、忘れてねぇ? そう来るなら俺は今まで通り独学のまんまやりゃ良いだけだってよ。別に今すぐ魔法使えるようにならなきゃいけねぇ訳じゃねぇんだし」


 口を引きつらせ、目をヒクヒクさせながら俺は遠回しに『じゃあ良いよ』と告げた。すると今度はセーラが、


「え~!? ちょ、ちょっと待ってよぉ~!! 魔法、教えたげるからさ~! 例えすぐに使えるようにならなくても、ちゃんと使えるようになるまで面倒見るからさ~!! ねっ? おねが~い!!!」


 先程の俺のように頭を下げ、手を合わせながら片目で様子をうかがってきた。


「だが断る!! 女装はもうこりごりだ! 絶対嫌だ! お前に頼んだ俺が馬鹿だったよ。けっ!」

「え~、そんなぁ~! 良いじゃ~ん!! ちょっとだけ! ちょっと膨らむだけだからさ!!!」

「は……? いや、膨らむってなんだよ!? 普通に訳分かんねーんだけど。怖いこと言わないでくださいます? 俺身体の内側から爆発なんかしたくねぇんだけど」

「え? いやいや、この話の流れでその発想になる!? もはや不思議なんですケド……お姉さんワカンナイ」

「いや、だって、膨らむって他に何が」


 マジで分からん。何が言いたいんだ? こいつは。


「……まさかホントに分かんないとは思わなかったよ。ダンジョンじゃあんなに毎晩奏っちとクロっちとヨロシクヤってるのに……。マスタ―って、案外純情なんだね。あぁ、マスターの知識にこっち系のって全然なかったねそういえば……」

「うっせぇよ。で、結局んとこ何が言いたい訳? こっち系とかボカシて言われたって全然分かんねぇよ」

「え~っと、パッドって知らない? 地球じゃそう言うんでしょ?」

「パッド? iPaDのこと? 知ってますけど何か」

 

 俺がパッドって言葉からすぐ連想出来た道具を思い浮かべながらそう言うと、セーラは宇宙猫のような顔をしたと思ったら顔に手を当てて何事か呟いた。


「いや、やっぱ何でもないや。マスターは知らなくて良いことかも! うん」


 セーラは微笑ましいものを見るような笑顔で俺を見ると、そう言った。

 しかし俺の耳は、ユニークスキル『吟遊詩人』を獲得したあの日から『地獄耳』になっている。故に、しっかりと先程のセーラの呟きを捉えていた。

 何と言っていたか?


――うわヤダこの子マジモンだわ。胸の詰め物知らないって……そんなことある?


 である。

 そう言われれば、流石に分かる。

 母さんが牛レベルだったし、紗耶香はまだそういう年頃じゃなかったから関わりがなく気付けなかったが、確かに言われてみるとアレはパッドと呼ぶんだったな。シリコンの奴とか、色々あるらしいことは知っている。 

 

「もう遅い。さっきの聞こえたから気付いたよ。はぁぁぁ~、俺の胸を盛って何が楽しいってんだよ……。あぁいうのって自分のを盛る為の奴だろ?」

「あ……聞こえちゃったか。まぁ、そうなんだけどさ! やっぱ胸があった方がファッションの幅が広がるってもんじゃん?」

「いや、知らんが。俺ファッション詳しくないし。ってか盛るったって、どうやってよ。んなもん持ってねぇだろ? お前」

「そりゃあ水魔法でちょちょいっと!」

「……ちなみに、どうやって?」


 本当は察していたが、あまりに恐ろしい方法なので一応確認する。


「え~? だって私、水を自由自在に操作出来るんだよ~? パッド代わりに水球置けばいいだけじゃん」

「あっ、そっちか」

「そっちってどっちよ」

「いや、なんでもねぇ」


 良かった~! 俺の胸、水風船にされるかと思った~!! 皮膚破けちゃうよ。いや、すぐ再生するんだけどさ……。


「ま、それくらいなら別にいいや。その代わり、ちゃんと魔法教えてくれよ?」 「おっけ~! そんじゃ、マスターのためにお姉さん、一肌脱いじゃおっかねぇ~! もっとじょそ……んんっ! じょ、上機嫌になってもらう為にもね!!」

 

 なんか聞こえたけど、もう疲れたから良いや。突っ込むのめんどくせぇ。


「あ、この際だから皆にも教えてやってくれ。使える技術の幅が広がるのは良いことだからな。セーラ先生の青空魔法教室だ」

「えっ、セーラのパーフェクト魔法教室?」

「やめろ! 全然パーフェクトじゃねぇからやめろ! ネタでもやめろ!」

「えぇ~、つまんないな~。もう! はいはい」


 ふぅ……良かった。どっかの自称最強妖精が先生じゃ絶対魔法覚えらんねぇからな。なんて考えつつ食料調達に行っているナディとクロに進捗を聞き、戻ってくるのを待ってから6人勢揃いでセーラ先生の青空魔法教室、開幕。


「みんな~! セーラのパーフェクトまほーきょおしつ、はっじっまっるよ~! あたいみたいな天才目指して、頑張っていってね~!」

「だからやめろっつってんだろうがあああーっ!!!!」


 先生のおふざけによって開幕から授業はとん挫したが、ともかくこうして俺達はセーラに魔法を教わることになった。

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