閑話 何処やイルカちゃ〜ん!!
「何処やイルカちゃ~ん!!」
セーラの力によって大海原を突き進む木製ボートの上で、クロが声を大にして口を囲むように手を構えて叫ぶ。
「熱心だねぇ~。まぁイルカが可愛いのは分かるけど、俺からすりゃイルカなんぞよりお前らの方がよっぽど可愛いけどな。ま、コボルト撫でてる奏も可愛いし、別に良いけど。もし見つかったら今度からクロにもペット枠が出来るってこったろ? そういや奏、向こうで普通の犬が見つかったらどうすんだ?」
ふと気になって聞いてみると、
「当然飼う一択!! モフモフ大好きだもん。良いでしょ? 創哉」
奏は一切迷うことなく飼います宣言。
「あぁ勿論。俺だってモフモフは好きだしな。どうせなら奏とクロにケモ耳ケモ尻尾生やしたいけど。ぜってぇ可愛い。うん」
頭の中で犬耳や猫耳、様々なケモ耳ケモ尻尾を奏とクロに生やして遊んでいると、
「それ、良いですねっ!! 創哉様!」
いきなりシンシアが割り込んできた。
ちなみに可愛いものに目がないセーラさんはと言うと、完全に海の中に潜ってるので雑談程度じゃ聞こえない。
今のクロ並みに大声を出して呼ぶか、思念話するか、自分から上がってこない限りセーラと連絡を取る手段はないのである。
まぁ思念話すれば良いだけなので、全く問題はない。
「だっろ~!? ぜってぇ可愛いよなぁ!?」
「はい!! 今度帰ったらリーリエお姉ちゃんに作れないか聞いてみます!」
「おっ、それ良いなぁ!!」
なんて2人で盛り上がる中、奏は困ったように苦笑。クロは
「そないに見たいなら、今ここでやったろか?」
いつの間にか現実に戻ってきていたらしい。
にしても、今ここでやる……とは?
「その顔、分かっとらんな? はぁ……ったく。なんで忘れとんねん。うちの妖術は姿弄るくらい朝飯前なんやで? 創哉はん自身だって、クロムウェルんとこに侵入する時幼女に化けとったやんか。部屋ん中に侵入した瞬間に『圏境』で姿消して、幼女はただの幻覚になったがの」
「あ~、そういやそうだったな」
そう。あの時、俺はクロムウェルの部屋に侵入する直前までは本当に幼女役だったのだ。理由は単純で、コストの問題だ。
どういうことか? 今となっては成長して出来ることが増えたが、あの時はまだ妖術を操る力量が低く、他人は小さな身体にしか化けさせられなかったのだ。故にクロが奴隷商役、俺が幼女役をしていたのである。
「忘れんといてや。で、どないする? 創哉はんがどうしても見たい言うんやったら、今ここでうちと奏ちゃんにお望み通りの耳やら尻尾やら生やしたんでぇ?」
そう言うと、クロは実に愉しそうに俺の太ももに横向きに座ると、挑発的な笑みを浮かべて俺の頬を撫でる。
「……お前、そういう感じのも出来るようになったんだな」
「なっ……! そ、創哉はん!? そこは狼狽えるとこやろ! なんで冷静に!」
いや、だって……最初の頃のぎこちなさを知ってる身からすると、頑張ってんだな~っていう印象しか覚えないと言うか。奏にあっち方面の技術を教わってるの、知ってるし。
「~~っ! つまらんやっちゃのぅ! あん時みたいに照れてくれたってええやんんかぁ! それか興奮して押し倒してくるか!」
「いや、ここ船の上だから。ってか子供たちの前だぞ。落ち着け」
「い、いえ父上! 私に構わず! 目は反らしておきますので! 耳も、塞いでおきます! なんだったら、海に潜っておきましょうか!?」
わたわたとナディが気を利かせてくれるが、流石にダメだ。
「はぁ、
「……むぅ。はぁ、しゃーないのぅ。けどつまらん!! もうええわ! イルカちゃ~ん!! 何処や~!!」
再び、
俺の方が間違いなく正論だとは思いつつも、何となく罪悪感を覚えてしまう。
「何処やイルカちゃ~ん!!!!!!」
あの、それはそうとうるさい。イルカが居たとしてもビビって逃げちゃうんじゃねぇの? と思うのは、俺だけだろうか。別にイルカの生態に詳しい訳じゃないから知らんけど。
なんて思いつつも邪魔をするのは何となく気が引けて、俺達はアイコンタクトを交わし頷き合い、あの時と同じようにガンスルーを決め込むことに決めた。
その結果、大海原の真ん中で、クロのイルカを呼ぶ声が何時までも何時までもひたすらに響き続けるのであった。
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