37話 いざ、亜人国家へ!!
いよいよ、この日がやってきた。
魔物融合で子供たちを産み出した日から、はや一ヶ月。彼らの実力は、まさに俺の予想以上だった。この分なら子供たちとPOPモンスターだけでも留守を守れそうだな、と思えるほどに。
しかし、実際にはそうならなかった。何故かって? 連れて行くつもりだったメイド隊が自ら辞退したのだ。代わりに子供たちを連れて行ってあげて、と。それを聞いた子供たちも、いやいや! と辞退。その結果、緊急で家族会議を開催することとなり議論の末結局、亜人国家に向かう者は俺、セーラ、奏、クロ、シンシア、ナディの6名となった。
いやなんでだよ!! 少なくね!? いやまぁ、そんだけ守りが厚くなるってことだから良いけどさ。でも、もう少し来ても良かったでしょ。いや、エッジとギガンは仕方ない。あいつらはちょっと、外に出るとアカンタイプの子達だから。
エッジはまず日光の下に出れないでしょ? ギガンはデカすぎて色々壊しちゃう恐れありでしょ? うちは、今となっては規模がデカいから全然問題ないけど。
まぁ、とはいえ家の中を自由に動き回れるか? って言うとそうでもない。全部屋バリアフリー化は出来てないからな。
特に寝室の入り口とかは高さ3m×横幅1m40㎝程度の、ドアレバーがついた木製ドアで統一されている。それでも今までの我が家の住人なら全く問題なかったくらい大きいのだが、ギガンは身長が5mで更に筋骨隆々だ。寝室には入れない。よって今の所、とりあえずギガン用でリーリエが作成した特大サイズの布団なんかを敷いて、別邸のコロシアムで寝てもらっている。屋根がなく野ざらしだけど、魔法の結界があるから問題ないのだ。
だからとりあえずは、その内もっとDPが溜まったり、ギガンみたいな身体の大きい子が増えたら、改築すればいいだろうということに家族会議で決まった。
「それじゃあ、行ってくる。留守を頼んだぞ。皆」
玉座の間に集まっている皆の前で、俺は宣言する。
領地内転移で行ける所まで一気に跳ぶので、わざわざ外に出てから別れる必要はないのだ。
「はい、行ってらっしゃいませ。こちらのことは我らにお任せを。勧誘の成功をお祈りしております」
リーリエが深々と頭を下げつつ、期待に目を輝かせる。
腕時計やらネックレスやら、ファッションに目がないリーリエ的にも、ドワーフの金属加工技術は是非とも欲しい所なのだ。眷属にさえしてしまえば、俺の記憶と知識は自動で共有される。つまり完成図のイメージが直で伝わるのだ。
そうすれば技術を持つドワーフなら多少苦戦はするだろうが、腕時計だろうと作れるだろうということだ。勿論腕時計という形状への加工は何の苦もなく可能だ。
しかし、間違いなく時間を刻む方法に苦戦するとのこと。地球とは違い、根本的に科学ではなく魔法文明でこの世界は成り立っている。
だから、俺の記憶と知識を得ても全てを理解できる訳ではないのだ。そういうものがあるのだと把握は出来ても、理解出来はしない。そういうことだ。
「ひひっ、任せぇ。ドワーフの火酒は美味いからのぅ。酒造りの力も込みで、必ず連れて来たる」
クロがニヤリと笑ってリーリエに答える。酒が目的だから! って言ってるけどこいつ、それ以上にイルカに会いたいが目的を占めている。クロが一番楽しみにしてるのは行きと帰りだな。まぁ、あんだけ楽しみにしてたんだ。もし見つけたら、眷属に出来ないか試してみるかね。そもそも居るのかって問題があるけど。
「それ以外の亜人の人達も、仲良くなれたら連れてくるね。カバルディとかフェレスとか連れて来たいかなぁ」
奏が別れを惜しむメイド隊の娘たちを犬猫のように撫で回しながら、えへへ~と虚空を見つめる。どうやら妄想トリップしているらしい。
ちなみにカバルディというのは、コボルトの雌バージョン。二足歩行する犬であるコボルトより人間に近いが、いわゆる『犬娘』より犬に近い、極めて半端な容姿の種族のことである。そしてフェレスというのは、その猫バージョン。雄はカトゥスという呼ばれるようだ。
まぁ、本音を言えば人間要素無しな方が良いんだろうけど。だって奏さん、モフモフ好きだからね。キレイなコボルトのこと、結構な頻度で撫で回してるし。
「創哉様たちの身の回りのお世話は、わ、私が代表としての責任を持って、しっかりと行います! だから、みんな安心してね」
同じくメイド隊に囲まれているシンシアが、多少オドオドしつつも、しっかりと宣言する。あの娘も成長したもんだ。この一ヶ月で戦闘技術も家事技術もかなり実力を伸ばし、相応の自信を身につけたのだ。
どれくらい強くなったのか? 具体的には言わないが、一つだけ。彼女はあるクラスを獲得した。
「兄さん。父さん達のこと、任せた」
エッジが言葉少なく、ナディに視線を送る。
「えぇ、私の誇りにかけて。こちらのことも頼みましたよ? エッジ、ミスリ、ギガン、シルル」
「あぁ」
「っ……!」
「任せるだ! あんちゃ!」
「堕落しない限りは、確約しましょう」
子供たちも、それぞれ頷き合っている。この一ヶ月で彼ら同士の信頼や絆も、相当に深まったと思って良いだろう。
シルルも堕落しない限りはなんて言っているが、そうなるとは露ほども思っていないのが良く分かる穏やかな笑顔を浮かべている。
「うんうん。別れは済んだね! それじゃマスター! 行こう! いざ亜人国家へってね! まだ見ぬカワイ子ちゃんをハントしに行こーっ!! おー!」
実に楽しそうに、腕を突き上げて笑うセーラ。
こうして俺達は海を越えた西方にある亜人国家へ向けて、出発したのだった。
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